青17:神様に(闇遊戯×海馬)


ぐったりと身を投げ出して肩で息をつく恋人の寝顔を見ながら、遊戯 ―― もう一人の ―― は不意にその身体を抱きしめた。
「…どうした?」
流石に散々啼かせただけあって、いつもならよく通る声も少し掠れている。
「ん…なんとなく、抱きしめたくなった」
「…鬱陶しい、離れろ」
「ヤダ」
「…では勝手にしろ」
そう言いながら流石の海馬も身体を動かすのが億劫なのか、それ以上は抵抗もせず、ただ浅い息を何度かついた。
究極の美人である恋人は、いつも素っ気無い。ほっておけば仕事・仕事・仕事…で自分のことなど心の片隅にも置いてはもらえない。
それが、珍しくこの日は一日オフで、泊まりでもいいぞなどと言ってもらえたから ―― 。
「なんか…滅茶苦茶幸せな気分って言うのかな? 神様にだって感謝したい気分なんだよな」
と珍しく本音を言ってみれば、見事に現実主義の恋人は不機嫌な表情で遊戯を睨みつけた。
「神様だと? そんな居もしないものに、何故感謝する?」
休みにしてやったのは俺だ ―― と、暗に子供っぽく拗ねているのは判るのだが。
「なんだ、海馬は無神論者か? ま、そうだろとは思ったけど」
「当たり前だ。神などというのは、太古の人間が自分たちの知識では判りかねるものを理解するために作り出した幻にすぎん。信仰や善行で物事が巧くいくなら、誰も苦労せんわ」
とまで言われると、ボキャブラリーの容量では完璧に負けるのが判っているから、反論など出来るはずもない。
「でも、『神のカード』は信用するんだよな」
「当たり前だ。アレはちゃんとカードとして存在しているだろうが」
…つまり実体があるかないかが判断基準か。
判りやすいといえば判りやすいが ―― あまりの現実主義にムードがないなと思ってしまうのはいた仕方のないことか。
そんな遊戯の心情を察したのか、海馬は寝返りを打って背を向けると、
「そもそも、神に祈るなどという他力本願は俺の好みではないわ。自分の願いは自分で適えるものだ。例えそれが神であろうと、他人に適えて貰おうなどという情けない真似ができるか」
と呟いた。
つまりは ―― そういうこと。他人に任せる人生など、この高貴な恋人には我慢のできないものであるから。
例えそれが茨の道でも、選ぶのは自分で進むのも自分であるから。
だから ―― 神などには頼らない。信じるのは自分だけで十分だと。
「海馬…」
「煩い! もう寝るぞ…///」
珍しく説教まがいのことを言ってしまったという恥ずかしさからか、海馬はそう突き放すと、そのままいつしか眠りの園へと逃げ込んでしまっていた。



キレイで気高くて、孤高な魂の愛しい恋人。
でも、そんな愛しい恋人を3000年の時をかけて手に入れることができたのだから ――
「何億、何千万分の一の確率かもしれないこの出会いだけは…感謝するゼ、カミサマ♪」
そうして、遊戯もまた ―― 恋人のぬくもりを確かめつつ、眠りの園へと堕ちて行った。






Fin.

カミサマと書くと…どうしてもイメージは「最遊記」だったりする。
いかん…頭が妄想菌で汚染されまくりだ。
ちなみに、浅葱も無神論者です。幼稚園はキリスト教系だったけど。

2003.11.16.

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