青19:必ず戻る(海馬瀬人)


屍は横たわる 器は砂となり塵となり ――
黄金さえも剣さえも 時に鞘に身を包む ――
骸に王の名は無し 時は魂の戦場 ――
我は叫ぶ戦いの詩を 友の詩を
遥か魂の交差する場所に 我を導け



『あの石版は、王と対峙する神官 ―― その者が残したもの…
友の詩を記した死者への祈り(ペレト・ケルトゥ)』



さかしげなイシズの顔が一瞬浮かび ―― その非ィ現実さに腹立だしさが加速する。
ええい、忌々しい。貴重な世界遺産だとかモクバが言うから部屋ごと買いきって保存させているが、やはりこの部屋ごと ―― いや、博物館ごとこの世から消滅させてしまおうか?



もとから信用などはしていなかった。
どうせヤツは…俺をおいていくだろうと。
ヤツが欲しがっていたのは、「失われた記憶」。
それを手に入れた以上は ―― 還るべきところへ還っただけのことだ。



『必ず俺は戻ってくる。お前を一人にはしない』



フン、口先だけは巧いからな。
この海馬瀬人ともあろうものが、あやうく騙されるところだったわ。
大体、あんなセクハラ・オカルティストなど、いなくなってせいせいするというものだ。
「ククク、わっははっ…」
乾いた笑い声だけが、誰もいない博物館を谺していく ―― 。
そして、やがて ――
「くっ…この俺を誑かすとは…やはり許せん、遊戯め…」



『泣くなよ、瀬人。俺は必ず戻るから…』



冷たい石版の奥から、そんな声が聞こえたような気がして ―― しかし、
「ふざけるなっ! 誰が泣いているだと!」
濡れた瞳を向ければ、石版に刻まれた若きファラオの姿が眼に焼きつく。
フン、いいだろう。戻るというなら戻って来い。
ただし、戻ってきたら無事ですむとは思うなよ。
この海馬瀬人を惑わせた償いをさせてやる!



「館長、この石版は部屋ごとこの俺が買い取る。よって俺以外の者への公開は無用だ。俺の許可なく部屋に入ることも許さん」
それだけ告げると、俺は博物館をあとにした。
いつまでも「過去」になど構っておられるか。俺には俺だけのロードがあるからな!
「戻って来て見ろ、遊戯。その時は、更に先へ進んだこの俺の姿を見せ付けてくれるわ」






Fin.

…ということで、王サマ里帰り中です。
あ、盗賊王のことも書くつもりだったのに、キレイさっぱり抜けてましたね。

2003.11.23.

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