茶01:集合写真(表遊戯&海馬)


3時間も待たされている間に、ケーキを4つと紅茶を5回お代わりしたという遊戯(オモテの方)は、
「とにかく、明日は絶対に学校に来てねv」
と言うとニッコリと笑ってKCをあとにした。



豪奢な黒のリムジンが童実野高校の前に停まったのは、既に6時間目の授業も終りに近い頃だった。
「フン…この時間では、教室に向う前に授業が終わるな」
校門から瀬人の所属するクラスまで、その長い脚をもってしても5分はかかる。それは校内が広いというのではなく、ただ単に移動手段が自前に頼るしかないからである。
流石にエアコンくらいならポケットマネーで入れてやったが、エレベーターやエスカレーターとなると校舎自体を建て直した方が早い。そのくらいの資金を出すことは構わないのだが、公立高校にそこまでの寄付は問題だという声もある。だが、
「…やはり、モクバがここに進学する前には入れるべきだな」
そう呟くと、颯爽と歩き始めた。
別に、遊戯と約束したわけではないし、返事もしなかったはずだ。だが、何故か本来の遊戯の言うことにはつい聞き入れてしまうことが多くて ―― これが、もう一人の遊戯の方であれば速攻で断っていただろうし、そのほかの連中なら、そんな事を言いになど来るはずもない。
「…まぁいい。一応は来てやったのだ。それで文句はあるまい」
尤も、文句を言われても、聞く気はないが ―― それはそれ。
とりあえず教室に向おうと昇降口で靴を脱ぐと、丁度、終業のチャイムが鳴り響いていた。



「やっぱり来てくれたんだね! 海馬君っ!」
気の早い連中が既に教室から飛び出したところに顔を出すと、すぐさま遊戯が飛びついてきた。
「良かった〜。来てくれなかったら、会社まで行こうかと思ってたんだ」
それは ―― 冗談でもやめて欲しいと思う。
それを露骨に表情に浮かべると、流石にクラスに残っていた連中はサッと顔色を変えたが、当の本人は全く気にした素振りもない。
それどころか、
「うわ〜、海馬君の制服姿って、なんか久し振りに見た気がするねぇ〜。それに、いい匂いもする〜」
そう言って更に抱きつけば、当然はるか頭上からは氷よりも冷たい言葉の刃が降り注ぐ。
「ええい、鬱陶しい。離れろ、遊戯! 何の真似だっ!」
「いいじゃない、減るものじゃないし。いつももう一人の僕には抱かせてあげてるじゃない?」
「なっ…誤解を招くような言い方をするなっ!」
それは誤解ではなく真実 ―― と知っている者も数名いるが、やはりまだ命は惜しいらしい。あえてそこに突っ込みを入れるものはいなかったが、
「でも、本当に来てくれてうれしいな。ありがとう、海馬君」
そういって満面の笑顔を向ける遊戯だが、海馬は不機嫌そのものである。
そもそも、遊戯の思い通り来てしまったというのも気に入らないのだが ―― それもこれもモクバの後押しがあったから。
『だって兄サマ。遊戯のヤツ、3時間も兄サマのことを待ってたんだぜぃ。きっと何か重大なことがあるんだよ』
昨日、遊戯がKCにきたとき、海馬は開発局での会議が長引いていたために、相手をしたのはモクバであった。一応モクバも、海馬が何時に戻るかはわからないからとは言っていたのだが、
『でも、どうしても海馬君にお願いしたいんだ。もうちょっと待ってみるよ』
そう言って聞かないから ―― 結局、3時間も待たされる羽目になったのだが。
(待たされたという割には楽しそうに話していたように見えたが…?)
しかも、実は来客用の御茶とケーキも食べていったのだが、まぁそのことについてはとやかく言うまい。
だが、
「じゃあ、そういうことで。ボクが来てねってお願いしたんだから、海馬君の右側はボクがGetだからね!」
触らぬ神になんとやら。
呆れ顔で見守っていた城之内だが、遊戯が本気らしいと気がつくと、
「…本当にやる気かよ」
そう引きつった顔で呟いたのを、海馬が見逃すはずはなかった。
「何のことだ?」
「え? やだな、海馬君。写真の配置に決まってるじゃない」
「写真?」
「だから、卒業アルバムの写真だよ。海馬君のだけ、まだ撮ってなかったんだって」
いや、正確に言えば ―― 海馬一人の写真ならすでにKCの広報部から入手はしていた。
問題は、学校で撮ったものがないということ。
「だって、折角の卒業アルバムだもん。やっぱり皆で撮りたいじゃない?」
「断る。貴様らの生ぬるいオトモダチごっこになぞ、付き合えるか」
大体そんな写真が世に残ると思っただけで身の毛がよだつというものだ。
だが ―― この程度で諦める遊戯でもない。
それに、
「あーあ、やっぱりね。海馬君ならそういうと思ったよ。遊戯君、やっぱり僕がアイコラで細工してあげるから、今回は諦めたら?」
そんな犯罪紛いのことをあっさりと言ってくれたのは、こちらももう一人の人格を持っている獏良で。
「えー、そんなの駄目だよ! 大体、元の写真だって、もう一人の僕ってばなかなか撮ってきてくれないんだもん」
「まぁね。僕の…リングの僕もなかなか撮ってきてくれないんだよね。海馬君の写真のためなら、銃の2発や3発くらい我慢すれば良いのにね」
でも、痛い思いをするのはいやだから、傷が治るまでは当然もう一人のほうに代わっててもらうつもりだけど ―― などなど。黙って聞いていればますます話がエスカレートしていきそうで。
だから、
「…貴様ら、何を企んでおるのかは知れんが…1枚だけだぞ」
「え? うん、いいよ、それでも。ありがとうっ!」
そう言って満面の笑みを向けられると、流石の海馬も悪い気はせず、大人しく数枚のカットを許したらしい。



尤も、後日 ――
「相棒とはツーショットを撮ったのに、俺とは撮れないって言うのかっ!」
そんな言いがかり(?)を付けに来た闇遊戯に辟易して、二度と集合写真なんか撮るまいと誓った海馬であった。






Fin.

別にツーショットではありません。
ただ単に、表様がシャチョと自分以外は切り取ってしまったというだけで…(苦笑)
しかし、宿主サマのつくるアイコラも気になるところ…ですよね?

2006.04.16.

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