茶03:愛妻弁当(闇バクラ&獏良)


(…ったく、倒れなければいいと思ってんな…)
そういえばそんな呟きを言っていたっけ?と思い出したのは、翌朝のことだった。



「おい、そろそろ目ぇ覚ませよ?」
そんな声に起こされてみると、僕はたった一人のダイニングテーブルに座っていた。
目の前にはトーストにサラダにホットミルク。あ、あと、イチゴまで用意してある。
どこから見ても、ちゃんとした朝食だね。あいかわらず、マメだなぁ。
(おはよう。今日も早いね)
とりあえず、そう心の部屋から声をかければ、
「おう、宿主サマ。やっと目ぇ覚めたか?」
そう返した声は ―― 間違いなく「僕」のものだった。
でも、普段の僕とは全く違う、ぶっきらぼうな言い方で。
それでいて、どこか優しく感じるのは ―― 贔屓が過ぎるかな?
「さっさと食っちまえよ。冷めるぜ?」
(うん、そうするね)
他に人がいなくて良かったよね。だって、この会話は僕と「彼」の二人にしか判らないんだもん。
あ、もしかしたら遊戯君だったら気がつくかもしれないけど ―― それはそれで「彼」が嫌がるからね。
そんなことをちょっと思いながら、ふっと力を抜くと、
「じゃあ、頂きます」
漸く自分の身体の支配権を取り戻した僕は、両手を合わせて挨拶をした。



僕の中には、もう一人別の存在がある。
正確には、父さんがお土産にとくれた「千年リング」というものに憑いていたらしいんだけど、最近はすっかり僕の身体に同居状態なんだ。
なんでも、彼は3000年前のエジプトの盗賊王なんだって。盗賊の王様なんてヘンだけど、本人がそういうんだからそうなんだろうね。
(そういえば、遊戯君のところは「ファラオ」って言ってたから…それに張り合ってるのかな?)
まぁその辺りは良く判らないし、その3000年前には遊戯君のところの「ファラオ」とか、あと二人がたまに口にする、「神官サマ」とか「セト」っていう人と何かがあったらしいんだけど…まぁいいや。
一人だけで暮らしているのが少し寂しいと思っていたから、こうやって側にいてくれる存在があるって言うのは ―― なんとなく嬉しいんだ。
尤も、僕が一人暮らしをしなくちゃいけなくなった理由の一つは彼が原因だったらしいんだけどね。
それはね、僕がまだ彼のことを気が付いていなかった頃、彼は僕の知らない間に僕の身体を使って好き勝手なことをしていたらしい。
それはちょっと今の世の中では常軌を外したことだったようで、警察やら病院やら、とにかく僕の両親は色々と苦労したらしいんだ。
そして最終的に、とても自分達では面倒見切れないと思って。しかもそれをいいことに、彼が僕を親から離して一人暮らし指せるように仕組んだらしいんだけど ―― まぁいいや。
今はこの生活、結構気に入ってるからね。



(おい、宿主サマ。今日は燃えるゴミの日だから、出かけるときにゴミを持っていけよ。まとめて玄関においてあるからな)
「うん、判った」
高校生で一人暮らしなんて、同級生の友達に言わせれば「羨ましい」らしいけど、結構大変なものなんだよね。
それこそ、家にいれば親がやってくれそうな炊事・洗濯・掃除を初めとした家事だって、自分でやらなきゃいけないんだから。
でもね。実はこの彼。すっごくマメな性格なんだよ。
家事なんか本当に手際が良くて上手だし、たまに犯罪的なことも平気でやっちゃいそうで危ないけど、生活能力に関しては僕より上なのは間違いないね。
たまに来るセールスとか、なんかの勧誘なんかを追っ払うのも得意だし。
だから本当に助かってるんだけど…あれ?
ふと気がついたのは、キッチンに用意されたお弁当箱。
一つは僕のだと思うけど、もう一つは ―― ?
「あれ…なんでお弁当が2つ?」
そう尋ねる ―― 勿論相手は、僕の中にいる盗賊王 ―― と、彼はちょっと戸惑ったように答えた。
(あ、ああ、あれな。その…シャチョに作ってやったんだ。悪いが持ってって渡してくれ)
「え? 海馬君に?」
(ああ、ほら、昨日。顔色悪かったし…どうせまた根をつめて、ロクにメシも食ってねぇだろうから)
人を人とも思わない彼だけど、何故だか海馬君には弱いんだ。
海馬君が、3000年前の「神官サマ」に似ているからかもしれないけれど ―― きっとそれだけじゃないとも思うよ、僕は。
海馬君、強くてキレイだもんね。「盗賊王」としては、目が離せないんだろうね。
「でも…学校に持ってって大丈夫かな? 今日来るとは限らないし?」
(あ、そうか。来なかったらいいぜ。城之内にでも食わせてやれ。アイツなら喜ぶだろ?)
でもそれじゃあ…。折角君が作ったんでしょう?
…もう、しょうがないな。
「…ホント、僕も君には甘いよね」
食べ終わった食器を流しに片付けて、カバンにお弁当を二つつめて。
「いいよ、学校に行く前にKCに寄ってみるよ」
そう言ってあげると、心の部屋で彼がちょっと照れたように笑った気がした。
いつもの不遜な態度が嘘みたい。
こんなこと、海馬君絡みじゃないとみせてくれないなんて ―― ちょっと妬けるよね。
だから、
(愛妻弁当持ってきましたって言ってやろう。海馬君の嫌そうな顔、見れないのが残念だけど!)


いつも一緒にいるんだもん。ちょっとだけ意地悪してみても ―― 怒らないよ、ね?






Fin.

最初はバク瀬人の予定で書いてたんですが…そんな気配は微塵もなくなってしまいました。
しかも、このお題シリーズ、ほぼ1年ぶりの更新です。
そっちが驚き…というか、恐縮です。

因みに、ウチの盗賊王は家事万能。
愛妻弁当、浅葱も欲しいです。(かなり本気)

2007.06.03.

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