茶04:どっちつかず(表遊戯&海馬)


思ったよりも話が長引いてしまったため、流石に教室には誰も残っていないと思っていたのだが、
「あ…海馬君?」
滅多にこの場では会うこともないクラスメイトの姿を見つけて、遊戯はニコッと微笑んだ。
夕日の差し込める教室の一画に、まるで切り取ったような一場面。
あまりというか殆ど見ることのできないシーンであるが、まるで初めから設定されていたかのようにはまり込むのは、やはり被写体がいいからだろう。
一瞬見とれてしまったが、当人も気がついているようだから、遊戯はニコニコと愛想の良い笑顔で話しかけた。
「それ、今週の課題?」
誰もいない教室で、席に着いた海馬の机の上には、無数のプリント。
それが、授業に出席しない代わりの課題であることは間違いないだろう。
だが、
「いや、今週分はもう出した」
「じゃあ…」
「来週は時間が取れそうにないんでな」
ちらりと覗けば、確かに今授業で習っているところよりも先に進んでいるようで。既に今の単元ですら四苦八苦している遊戯にしてみれば、単純に賞賛を覚えるところだ。
神は二物を与えずとよく言うが、海馬に限れば大盤振る舞いだ。
その美貌は言うまでもなく、頭脳は明晰、行動力と決断力は向かうところ敵ナシ。
但し城之内あたりに言わせれば、それを差し引いても大きくマイナスになる性格とのことで顔を合わせるたびに喧嘩腰になっているが、何故か海馬は遊戯には甘いところがある。
(まぁ、もう一人のボクには容赦ないけどね)
「…で、貴様は何をしている?」
そうこんな風に、他人に興味を抱くなんてありえないところだ。
だが、
「うん、実は進路相談でちょっと話が長引いちゃってね」
何故か遊戯も、海馬には思ったことを素直に話してしまうところがあるから ―― 不思議なものだ。
「一応、進学希望なんだけどね…」
一応進学を予定しているが、大学にするか専門学校にするか。いやその前に、狙う学部をどうするかということもある。
祖父の経営するゲーム屋を継ぐのなら経済学部が最適と思えるが、それとて確定と言うわけでもないから、悩むのだ。
例えば、もう一人の自分が生きていた時代を知ってみたいとも思えるし。
最近では、デュエルのプロリーグと言う話もあるから ―― 挑戦してみたいとも思わなくもない。
そう、やってみたいと思うことは多々にあるのだ。
(でもこんなこと愚痴ったら…海馬君に怒鳴られそうだったね)
自分にも他人にも厳しい海馬のことだ。あまりに優柔不断でいれば、その怒りの雷がいつ落ちてこないとも限らない。
しかし、
「悩むと言うのは選択肢があるということだ」
思いのほか、海馬は怒鳴るでもなく、寧ろどこか言い聞かせるようにそんなことを話しはじめた。
「いいではないのか? それだけの選択肢があるのならば、貴様の人生だ。大いに熟考するがいい」
そんなことを言われて、遊戯はハっと目を見張った。
そうだった。遊戯にとっては些細な海馬にはその選択肢が既にないから。
選ぶべき時はまだ幼いころのことで、それを突き進んできた海馬には、既にロードが定まっている。
本来であれば、これから未来をどう進むかと画策するところであるのに、既に決めて ―― 決められてしまった海馬には、それを突き進むのが当たり前になっている。
尤も、それを悔いるような海馬でもないのは ―― よくわかっているが。
そして、
「心配するな。いざとなればわが社で面倒を見てやっても良いぞ。だがその前に…」
遊戯のデュエルレベルであれば、KCの新製品開発に役立つことは間違いなさそうだから。
だが、海馬はいつもの高貴で不遜な笑みを浮かべると、
「どれを選ぶにしろ、まずはそのレベルの低すぎる学力をなんとかするのが先だろう? 悩む以前にスタート地点にすら立てないようでは、片腹痛いわ」
そう言って笑い出した。
「あっ…もう、海馬君の意地悪っ!」
どっちつかずに悩む未来はあるけれど、まずは目先の問題をクリアしてから、と。
流石に遊戯もそう思いなおし、忘れて返りそうだったプリントを机から引き出すと、一寸悔しそうな表情を海馬に向けながら帰り支度を始めていた。






Fin.

半年に1回ペースの更新ですか?(滝汗;)
流石に、ここまで書けないとは思いませんでした。

遊戯王キャラって、結構即決タイプが多いので、このお題は…確かに難しかったです。
特に社長を絡めると、雷どころじゃない気がするし;

ちなみに、最近のうちの社長。表様には結構優しいです。
その分、闇様にはキビシイですが。(苦笑)

2007.12.23.

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