緑03:行方知れず(盗賊王×神官)


夜陰に紛れて町外れにある隠れ家にやってきたが、やはりここにも人の気配はなかった。
「フン、やはりここに帰って来た形跡はない…か」
人目を避けるためにかぶっていたフードを外し、乱暴にベッドの上に放り投げると、セトは窓枠に腰掛けるようにして外を見た。
空には折れそうな三日月がかかっている。
最後にこの部屋で月を見たのは ―― あの月が満ち足りていた頃。
そしてその時、一緒に見たのは ―― 。
「どこぞの墓の仕掛けにでも引っかかったか? ま、自業自得だな」
まっとうな生き方ではないから、どこかで野垂れ死にするのがオチだろうとは思っていた。
別にヤツが死んだとしても、己には関係のないこと。
寧ろ、一応国賊であるから王宮に仕える身としては国難の一つが去ったと喜ぶべきかもしれない。
しかし ――
「…くっ、忌々しいヤツめ…」
居れば居たで厄介であるのは確かなこと。
何度となく仕事の邪魔はされたし、それ以上に仕事を増やす元凶っを作ったのも、あの自称盗賊王である。
しかし、いないとなるとそれも腹立だしい。
神官としての仕事を邪魔するヤツが半減して、余計な仕事が増えることもなくなったというのに。
「邪魔するだけ邪魔して、それで逃げるつもりか、あの大ばか者はっ!」
…考えれば考えるほど、腹立だしさが増してきた。



いっそのことこの隠れ家に火を放ち、この世から消滅させてしまおうか?
居るかもしれない場所 ―― 帰ってくる場所が判っているから、つい待ってしまうのだと自分に言い訳をするくらいなら。
そもそも、なぜ俺があんな自信過剰でガサツで礼儀の一つもできなくて、我がままで態度の悪い盗賊風情を気にしなくてはいけないのだ!
ヤツのディアバウンドと俺のデュオスの勝負は今のところ五分の引き分け(←セト評価)。
それをあの馬鹿は勝った気でいるはずだから、その鼻柱をへし折ってやれなかったのも腹立だしい。



「フン、やはりこのままでは逃がさんぞ」
折れそうな三日月が砂漠に沈むのを見届けて、セトは隠れ家をあとにした。
このまま行方知れずなど、この俺が許さんわ!
俺に断りもなく死ぬことなど許しはしない。
生きているか死んでいるか判らないなどという、あやふやなことはもってのほかだ! 絶対に探し出して、俺の手で確実に息の根を止めてやる。
二度と、行方知れずなどさせぬために ―― 。






Fin.

い、一応、バクセト? なのかな。
相変わらず中途半端が嫌いなセトです。
それでもわざわざ足を運ぶとは珍しい。
多分、(余計な)仕事がなくなって暇になったのも腹立だしいんでしょうね。

2004.01.13.

Silverry moon light