緑06:再提出(城之内×海馬)


久しぶりに定刻で屋敷に帰ると、自室の机の上に一通の封筒が置いてあった。
いかにも経費削減と言いたげな何の変哲もない茶色の封筒。
だが大きさもそれなりなら厚みもそれなりにあり、ついでに印刷された差出人の名前は ――
「童実野高等学校…何の真似だ?」
訝しく思いつつも封を開けて、海馬の蒼穹が凍りついた。



翌日は ―― やや空気は冷たいながらもいいお天気で、だが、教室は絶対零度の寒気団が襲来していた。
「ほら見ろ、やっぱ来ただろ?」
「すごいねー。城之内君の言ったとおりだ!」
「へへっ、俺の作戦勝ちだぜv」
教室のドアを開けた瞬間目に入ってきたのは ―― 思いっきり胸をそらして我が物顔の城之内と、その城之内を褒め称える武藤遊戯(表の方)。
「海馬く〜ん、逢いたかったよぉ〜」
「あ、遊戯! 俺が作戦を立てたんだから、抱きつくのは俺が先っ!」
「え〜いいじゃん。減るもんじゃないしぃ〜」
「減るわっ!」
5万人を軽く収容する海馬ランド青眼ドームでもよどみなく聞き取れるという罵声が、向こう三軒両隣の教室にまで響き渡る。
「コレはどういうことだ、城之内?」
抱きついてきた遊戯を愛用のジェラルミンケースで殴り倒そうとするが ―― いかんせん、咄嗟のことに身長差を計算に入れていなかった。
軽くヒトデ頭の上をスルーされ、慣性の法則のままに別のクラスメートが犠牲となって蹲っている。
尤も、そんな細かいことを気にする海馬ではないので、
「先月の俺に出された課題プリントを、提出しておいてやるといったのは貴様のはずだ」
腰の辺りにまとわり着く遊戯がうざいのはこの際置いておいて、諸悪の根源ともいえる相手を睨みつける。
尤も、睨みつけられたほうは ―― 久々の恋人の視線を独占できるというだけでご満悦のようだ。
「うん、そうだったな」
「ならばなぜ戻ってきた?」
そう、昨日自宅の机に置かれていたのは、先月末には城之内が出しておいてやるといったはずの学校の課題。
社長業の忙しい恋人に会う口実にわざわざ自宅まで持ってきて、そしてやはり逢う口実でもって行ってやるからと取りにまで来ていたはずで。
だが、
「だって、それ出したら…お前、また暫く学校にこないだろ?」
「な…」
「たまには学校でイチャイチャしたいじゃん」
「…ばか者、何を言って…」
「遊戯も逢いたいって言ってたし」
「俺はコレとは逢いたくなどないわっ!」
そして、はっと思い出したように腰の辺りにまとわり着く遊戯を引き剥がそうとすれば、
「ふぅ〜ん。じゃ、誰なら会いたかったのかな? 教えてほしいなぁ〜v」
「くっ…」
何せ、相手は3000年前のファラオでさえ跪かせる最強デュエリスト。
そこはかとない邪悪な翳に、流石の海馬も言葉をなくす。
「と…にかく、最早貴様には任せておけん。自分で提出してくるわっ!」
「え? あ、じゃあ俺も職員室まで付き合うぜ」
お姫サマには護衛が必要だしvと、それはもう楽しそうで。
「必要ないっ! それに、だれが姫だ!」
「勿論、お前v」
とかいいつつも、颯爽と歩き出す海馬の後を追いかける城之内の姿は、どう見ても…
「…飼い犬とご主人サマね」
杏子の一言に、誰もが納得したのは言うまでもない。






Fin.

遊戯を目の前にしての城海です。
この場合、W遊戯と城海という組み合わせなのかな?
基本的にうちの攻さんは我侭が多いです。
一番我侭なのは社長ですが…v

2004.11.27.

Silverry moon light