緑08:カラフル(闇遊戯×海馬)


摩天楼の最上階。
暗い夜空の下には、宝石箱をひっくり返したような光の海が広がっているが、それを見下ろした遊戯は退屈そうだった。
室内に視線を戻せば、そこにはさまざまな色に着飾った紳士淑女の群れ。
そこで飛び交う会話は上流階級の高尚な話題というヤツらしく、とても遊戯にはついていけそうにない。
一応、自分もタキシードというヤツを着せられているが、はっきり言って慣れないどころか気疲れしそうな格好で。
そもそも会話の殆どが英語という壁も立ちふさがっている。
「悪いな、遊戯。もうちょっとしたら兄サマも手が空くと思うからさ」
そういって懐かしいとさえ思ってしまう日本語で近づいてきたのは、やはりこちらもいつものラフな格好からは見違えるようなスーツ姿のモクバ。
そしてその視線の先には ―― ビジネス時であれば見慣れている白シーツの海馬が、にこやかな笑みを浮かべていた。
どんなにカラフルな色彩の群衆の中にあっても、そこだけがスポットライトを当てられたように浮かび上がる唯一の存在。
流石に体格のよい外人 ―― この場所を考えれば、遊戯や海馬の方こそ、そう呼ばれるのだろうが ―― の中にあれば、遥かに華奢で繊細に見えるのも事実。
その上、とてもいつもの高笑いや唯我独尊の姿からは想像できないような穏やかな表情で、それこそ女神の微笑みで談笑していると一見見えなくもないのだが、
「そうだな。そろそろ助けてやらないと…ヤバイんじゃないのか?」
そう呟く遊戯の声は、どこか楽しそうにさえ聞こえてくる。
遊戯とモクバの視線の先では、いつしか海馬の相手は金髪碧眼の偉丈夫に変わっている。
しかもどうやら相手は多少アルコールに酔っているのか、明らかにその碧眼には邪心が潜んでいると見て取れた。
(尤も…あの海馬が相手なら、酔ってなくたってヨコシマな気分になるだろうな)
何せ仮にも仕事中。相手を篭絡させる気はなくても、その営業スマイルに騙される人間は計り知れないもので。手痛い思いをする輩は ―― 減少した試しがないといわれるほどだから。
尤も、余り執拗であれば、例え衆人の目に前であろうと相手を殴り倒してでも振り切る海馬でもあるのだが、
「今、兄サマが話してるのは…ホワイトハウスの高官だぜぃ。もうちょっと我慢してもらわないと…」
「フン、磯野サンもかわいそうにな。いつ海馬がキレないか、気が気じゃないって感じだぜ?」
秘書兼ボディガードとして側に侍っている磯野であるが、今頃はそのサングラスの奥で冷や汗をかいていることだろうと想像すれば、人が悪いといわれても、つい苦笑ももれるというものだから。
ククッと、ちょっとつりあがった唇を隠すように指を当てて笑えば、その瞬間、視線の先にいた海馬と目があった。
その瞬間 ―― それまで淡い空に似た色だった瞳の色が、深い藍色へと一変した。



本心を装った営業スマイルは薄いsky blue。
モクバと唯一のしもべにだけ向ける微笑はcerulean blue
命がけのデュエルをしている時はcobalt blue
同じ青の瞳でも、そのときの状況によってはそれこそcolorfulなまでに色を変えるから。



「貴様も…決闘王として子供たちの相手をすることになっていただろうが?」
漸く開放されたのか ―― というよりも、その瞳の急変に流石に気がついた高官がたじろいだ隙に交わしてきた海馬は、そう忌々しげに言い放つ。
「仕方がないだろ? 相手は子供といっても…英語じゃ何を言ってるのか判らないからな」
「それでペガサスに押し付けたのか? …まぁ、あの男なら子供の相手は得意ではあるがな」
そう言って海馬が視線を向けた広いパーティ会場の一画では、カードデザイナーでもあるペガサスが上流階級の子供たち相手にデュエルの真似事のようなことをやっている。
「まぁな。ついでにお前に群がる煩い虫を1匹でも減らせれば、好都合だし」
「フン、1匹減らしたくらいでは大して変わらんわ」
そういいつつも、遊戯の隣に並び、海馬はウエイターからシャンパンのグラスを二つ取ると、一つを遊戯に手渡した。
「未成年だぜ? 一応」
「構わん。カウントダウンが済めば無礼講だ」
そういいながら、軽くグラスに口をつけると、甘酸っぱい液体で喉を潤している。



「Ladies and gentlemen ! It's about time New Year's Day. 」
アナウンスが入って、子供たちは事前に配られたクラッカーを手に取りその時を待つ。
「そろそろ時間らしいな」
「海馬、こっちに来いよ」
何気にその細い腰を抱いて引き寄せれば ―― 珍しく大人しく側に来て。
「3、2、1…A Happy New Year !」
―― パン、パーン!
飛び出すクラッカーの紙吹雪の中、最愛の恋人とその年最初のKissをする。
「んっ…な、貴様っ! どさくさに紛れて、何をっ !?」
「心配するなよ。この続きはホテルに戻ってからにしような♪」
「 ―― っ///!」



そして ―― 情欲に濡れるindigo blueは俺だけのもの。






Fin.

…SSって、どのくらいの量の事を言うんだろ? ま、いいですけど。

ちょっと遅ればせながらの新年ネタ。
黒のタキシードがメインの中で、社長はやっぱり白かしら?
…一歩間違えたら、新郎…。新婦の方がやはりビジュアル的には…(笑)

2005.01.08.

Silverry moon light