緑09:封筒(ペガサス×海馬)


装飾よりも機能性を優先にしたため、パッと見はシンプルに統一された社長室。
だがその一つ一つの調度品は、どれもがその道の最高級といわれる素材であることは間違いがないはず。
尤も、この部屋で一番の高級品といえば ―― この部屋の主人であることは言わずと知れているが。



「…では、その方向でプロジェクト進めましょう。よろしいですね、海馬ボーイ?」
「ああ、異存はない」
ガラスのテーブルを挟んでいるのは、片や真っ赤なスーツのペガサスと、純白のスーツに身を包んだ海馬瀬人。
どちらも長い足を優雅に組んで向かい合っているが、満面ご機嫌のペガサスに比べ、海馬の方は不機嫌そのものである。
「おや、海馬ボーイ? 何かご不満でも?」
「不満などない。これでこの件は成立だな。では早々に帰れ」
商談中はそれでもなんとか愛想を保っていた海馬であるが、終わったとたんにその仮面も早々に脱ぎ捨てた。
勿論、そう簡単に引き下がるペガサスでもないのだが。
「Oh, No! 相変わらずつれないですね、海馬ボーイ。やっと仕事の話が終わったのデース。これからはプライベートなお話に盛り上がりましょう♪」
そういって身を乗り出して海馬の手をとろうとすれば、
「さっさと帰れといっておるわっ!」
流石にここに来て堪忍袋の緒が切れたのか、人一人は軽く押しつぶせそうなほどの堅牢なソファーを蹴倒して立ち上がると、海馬はペガサスの額に銃口を向けた。



「No〜! 海馬ボーイ。そんな物騒なモノはいけまセーン。」
「アメリカ人の貴様にとっては、銃など珍しくもないだろう?」
「Yes, しかーし、海馬ボーイ。ここは日本ですよ」
「国籍などに拘っておっては、これからのビジネス界で生き残れんわ」
「それはその通りデース。ですが、それ以上に短気はいけまセーン」



実際、ここでペガサスを殺してしまっては ―― 折角、2時間も我慢してまとめた商談がご破算になってしまう。とはいえこのままペガサスの思惑にはまるのは更に腹立だしい。
そしてペガサスのほうは、そんな海馬の心境もわかっているから。
流石にややびくついてはいるものの、本気で撃ちはしまいと思えば ―― 折角のチャンスを逃すすべはない。
「私も遠路はるばる来日しているのデース。一度くらいは夕食をご一緒してもよろしいでしょう?」
「断るっ!」
2時間の無駄は惜しいが、精神衛生上やむなしとやはり撃ち殺そうと覚悟したそのとき、
「兄サマ! お仕事、終わったんでしょう♪」
恐らくは同席していた磯野からの緊急コールを受けたのだろう。この状況にも関わらず、モクバが何の驚きもせずに部屋に入ってきた。



「そうだ、兄サマ。手紙が来てたぜぃ?」
どうやら狙われる相手は異なっても、こういう状況は今更驚くことでもないらしい。海馬は未だペガサスに銃口を向けたままであるが、モクバは全く気にした風もない。
「なんか、invitation letterみたいだぜぃ。ちゃんと封蝋までしてあるぜぃ?」
そういってモクバが差し出したのは、薄いラベンダーカラーの封筒が一通。
裏をみれば確かに封蝋までしてあるという、レトロというか凝った意匠というか ――
「Oh, これはシュレイダー家の紋章ですね?」
「そういえば、新作の薔薇が開花したとか、レオンからメールが入ってたぜぃ」
そんなことをさりげなく話すモクバとペガサスには構わず、海馬は即効で真っ二つに破ると、更に握りつぶしてダストシュートに叩き込んだ。
そしてそのまま部屋を出て行ってしまった。



残されたペガサスは
「モクバボーイ、海馬ボーイはいつもああなのデスカ?」
「ああ、シュレイダー家の紋章とか、パラディウス社のロゴとか入った封筒は即行だぜぃ」
「もしかして…私の愛するラビットの封筒も?」
「勿論!」
これまた即行で返ってきた返事に、ペガサスは頭を振って額に指を当てた。



「仕方がないデース。今度、青眼のレターセットをわが社でも手がけまショウ。そうでもしないと…私からのラブレターは当分読んでいただけまセーン」






Fin.

そしてつくったはいいが…実はトゥーン青眼だったりして
更に海馬を怒らせるペガサス〜、なんていうのが浅葱は好きです。
どうもペガサスは、海馬に対して子供扱いというか…
「好きな子は いじめ からかいたい」という感じです。

そして、それにまんまと引っかかるんだな、海馬は。
だから「姫」なんですよね♪

2005.01.22.

Silverry moon light