緑12:割れたグラス(闇バクラ×瀬人)


―― ガシャーン!
手を払いのけた拍子にテーブルの上からグラスが音を立てた。
そしてその一瞬のうちに、あたりは邪悪な闇に包まれて、
「フン、いい度胸だな? オレ様のシャチョーに手ぇ出してるんじゃねぇよ」
気がついたときには、血の色に笑うバクラが立っていた。



「何故…貴様がここに?」
聞き覚えのある声にまさかと思いつつも見上げれば、そこにいたのは見覚えのある気狂いで。
「ああ? ったく、シャチョーは無防備すぎるぜ。こいつのツラぁ見りゃ、ロクなこと考えてねぇって判るだろうが?」
そういって床に倒れた男の身体を忌々しそうに蹴ると、バクラは海馬の前に膝をついた。
「アンタだって薄々気がついてたんだろ? なのに、なんでアレを飲んだ?」
思い通りにならない身体の海馬の顎をつかんで上を向かせれば、やや上気しながらもその蒼穹は相変わらずの青を湛えている。
艶かしく濡れる唇とは裏腹に、その高貴さは決して殺がれることがない。
「フン…貴様には…関係ない」
「どうせ、王サマとケンカでもしたんだろ? その腹いせか? アンタらしくもねぇな」
「う…るさい ―― っ !? 」
自分に触れてくる手を払いのけようとするが、逆に取られて床に押し倒され、そのまま深く唇を奪われた。
ゾクリとするほどに冷たい舌が侵入し、逃げかかる海馬の口腔を犯し始める。
それでなくてもアルコールと ―― おそらくそれに混ぜられていた催淫剤の影響で、海馬の身体の奥が暑く熱を帯びるのは容易いことだった。
「まぁいいさ。オレ様にとってはどうでもいいことだからよ」
クスリと ―― バクラの仕掛けた闇の影響で、海馬の身体は既に思うようには動かない。
それでも、その蒼穹だけは健在で。
「バクラ…貴様っ…」
「心配すんなよ。ちゃんと天国を見せてやるからよ」
「誰がっ…ぁっ…」
強がる吐息はすでに熱を持ち、スッと触れてくるその冷たい指先にまで伝染しそうになる。



「ったく、哀れなヤツだよな」
ぐったりとシーツに沈み込む白い身体を見下ろして、バクラは忌々しく呟いた。
元々海馬は、自分自身でさえも取引の材料にすることに忌避はない。
むしろ、それで済むなら幾らでも利用してやるといた風で。
だが ―― そんなことが、自分を傷つけているとは気が付かなくて。
「全く…っ痛…?」
ベッドを降りて歩き出せば、チクリと素足にガラスの破片が突き刺さる。
先ほど海馬が振り払ったグラスは、中身の赤い液体をこぼした上にその縁も少しかけたようだった。
そのグラスを手に取ると、バクラは手近にあったボトルから琥珀の液体を注いだ。
だがそれは ―― 一杯になる前にかけたところから溢れ始めていて。
「フン、まるでシャチョーみたいってか?」
そう呟くと、一気に煽るように口に含んでいた。






Fin.

少々スランプなので(←実は万年?)
分けのわかんない話になっています。
闇海←バクラって感じかな?
最近、鬼畜なバっくんがホントーに好きだわv

2005.03.26.

Silverry moon light