緑13:泣いたり笑ったり(W遊戯×海馬)


初めて見たのは、童実野高校の入学式。
新入生の代表として挨拶のスピーチをしたのが海馬だった。
そのときの印象は、「お人形さんみたい」。
日本人離れした蒼い瞳に白皙の肌は、オレたちとは別世界のイキモノにしか見えなかったし、あの頃の海馬は丁度KCを義父から奪ったばかりとかで、学校に来るのは今以上に稀だった。
一応、表向きは「病欠」ということになっていたから、素直にそれを信じていたオレなんか、「海馬って、身体が弱いんだな」と、妹の静香に重ねてみたりしたもんだ。
まさか、影であんなことやそんなことをしているとは思いもしなかったんだからしょうがないぜ。大体、フツーの高校生とは済む世界が違うからな。



「かっいばくーんv」
気がつくと既に授業は終わっていて、相変わらずのチャレンジャーである遊戯(勿論、本来のほう)が海馬の席に向かっていた。
あの頃と同じように今日は珍しく学校に来て授業を受けているが、違うのは ―― 授業中であろうと構わず机の上に置かれていたのは、KC特注のノート型端末だ。
「もう、海馬君ってば、休み時間にまで仕事してないでよぉ〜」
…っていうか、授業中にだって普通はヤバイと思うぜ?
そんなオレの心の声はどうでもいいけど、下手に仕事の邪魔をすると殺されかねないぞ、遊戯!
だが、そこは仮にも決闘王。海馬も一応一目置いているのか、
「休み時間に何をしようと、俺の勝手だ」
「もう、つれないね。たまに学校に来てるんだから、一緒に遊ぼうよv」
「断る」
…っつうか、誘うな、遊戯!
海馬が速攻で断ってくれたことに、オレも本田も思いっきり安堵しちまうぜ。
大体、相手はあの海馬だぜ? 遊ぶなんて…想像したくもないぞ。
まぁ海馬がオレ達とつるむわけもないしな。
しかし、そう言ったきり端末の画面にしか視線を向けない海馬は、つい思い出した昔と同様に、他の一切を拒絶したように取り澄まして見えた。
まぁ黙っていれば「カードの貴公子」といわれるだけあって、見てくれは…いい。
但しその中身にいたっては…コメントは控えさせて欲しいところだな、うん。
もっとも、それについては ――
「フフン…海馬。まさかオレとのデュエルはできないなんていわないよな?」
ドン☆という効果音でも聞こえてくるように、不意に遊戯の雰囲気が変わり ―― 「もうひとりの遊戯」が表に出てくる。
「…デュエルだと?」
「ああ、デュエルだぜ? どうする?」
その瞬間、海馬の蒼穹が更に蒼を増して、見るものを吸い込むような光を湛え始める。
そして、
「フン、いいだろう。今日こそ貴様に目にものを見せてくれるわ。ワハハハ!」
瞬時に端末を強制終了し、立ち上がってふんぞり返って高笑いを見せる。
まるで敗軍の将を前にした女王サマだぜ。そのタカピーさといったら、小憎たらしいコギャルなんかマジに可愛いもんだと思うよ。
「だが、ここでは場所が狭い。屋上に来い、遊戯。相手になってやるわっ!」
そういうなりさっさと先に歩き出す姿は、トップモデルも太刀打ちできないように颯爽としていて。ホント何をやっても絵になるヤツだと思わざるを得ない。
だが、
「フフン、笑っていられるのも今のうちだ。オレが勝ったら、今夜は一晩中啼かせてやるからな」
…それ、ちょっとヤバくないのか、遊戯?



あの頃と比べれば、随分表情が豊かになったとは思うけど、それが良かったかどうかは ―― 神のみぞ知るってところだぜ?






Fin.

泣いたり笑ったり…「笑う」の方はともかくとして、「泣く」のほうはイミが違うと自覚しています。
おかしい、最初はもっとシリアスになるはず(しかも城海)だったのに。
どこで間違ったんだろう?

2005.04.24.

Silverry moon light