緑18:俯く(モクバ×瀬人?)


ほんのりと染めた頬を隠すように、兄サマは軽く俯いてそこにいた。
白皙の肌にも負けないような白無垢に、栗色の髪をすっぽりと隠してしまう綿帽子。
どちらかといえば、いつもはピッタリと体のラインを浮かび上がらせるような服装の多い兄サマには珍しいけど、でもオレの兄サマは何を着てもいつもキレイだ。
「兄サマ、すっげぇキレイだぜぃ。こういうのを三国一の花嫁っていうんだね」
「モクバ…恥かしいことを言うな」
流石に白無垢綿帽子のこの姿では、いつものように高邁無敵・唯我独尊の傍若無人ぶりは似合わない。
それを兄サマも知っているのか、交わす言葉も俯いたままでちょっと消え入りそうなくらい儚く聞こえる。
そして、
「…すまない、モクバ…」
扇子を持って膝の上に置かれた手が僅かに震えている。
オレはそんな兄サマのキレイな手を握って、顔が見えるように兄サマの前に膝を着くと、綿帽子の中の顔を見上げた。
「違うぜぃ、兄サマ。こういうときは『ありがとう』って言うんだぜぃ?」
「…モクバ…」
「兄サマ、幸せになってね。あと…例え兄サマが遊戯のところに嫁いでも、俺たちが兄弟であることには変らないよね。だから、何かあったらいつでも帰って来てね」
そう言って見上げた兄サマの顔は今までに見たこともないほどにキレイで ――



「滅びのバーストストリーム、3連弾っ!」
「キシャーっ!」
大音響と閃光と、そして僅かな揺れで目が覚めた。
そういえば、昨夜は遊戯が来ていたから、兄サマと青眼は朝から元気だぜぃ。
それよりも…
「…夢か」
なんか凄い夢を見ちゃった気がするぜぃ…。
それもこれも、多分原因は昨夜の遊戯の罰ゲームのせいだろうけど。



『なぁ、モクバ。海馬に着せるなら、やっぱり純白のウェディングドレスだよな☆』
『確かに似合うけど…なんで罰ゲームがウェディングドレスなんだよ?』
なんて、聞いたって無駄なのは判ってるけどさ。
『ちゃんと海馬がオレのモノだってことを証明するには、やっぱ結婚式が一番手っ取り早いだろ?』
『バカモノっ! それはこの前にもやっただろうがっ!』
怒りでフルフルと肩を震わせながら怒鳴る兄サマだけど ―― ちょっと朱に染まった頬なんか、どう見たって怒っているだけじゃないのはバレバレだぜぃ…。
(ああ、結婚式を経験済みなのかという突っ込みは入れないでくれよ?)
『じゃあ、今度は衣装を変えてやろうぜ。日本では白無垢っていうのを着るんだって、相棒も言ってたしな』
背も高くてスタイルのいい兄サマなら、ウエストを絞ったドレスも滅茶苦茶似合うけど、確かに白無垢に綿帽子というのも捨てがたい。
捨てがたいけど…
『でも…綿帽子だと、兄サマの顔が見えないぜぃ。あ、あと、神式だとキスはないぜぃ』
『えー、そうなのか? それは、もったいないぜ!』
そういう問題でもないと思うんだけど…まぁいいか。



「毎回毎回遠慮なしに盛りおって…貴様の節操なしにはほとほと呆れるわっ!」
「なんだよ、それ。お前だって昨夜はあんなに気持ちよさそうに俺に縋ってたじゃないか!」
「う、煩いっ! 殺れ、青眼! アルティメット・バースト!」



でも、俯いて恥らう兄サマなんていうのもいいよな。
まぁ、青眼×3という小姑が付いているうちは、それかなり先の話だろうけど。






Fin.

暗そうなお題だったのですが、考えているうちにこうなりました。(笑)
白無垢綿帽子の花嫁に、モクバとしては父親の心境ですか?
ウェディングドレスだと、どーも腰に手をあて高笑いな兄サマなんですが、
流石に白無垢だと…箱入り姫状態ですか?

2005.09.17.

Silverry moon light