緑20:三つ葉のクローバー(城之内×海馬)


「四葉のクローバーの葉には、それぞれに意味があるの」
そんな風に教えてくれたのは、杏子だった。



「あ、兄サマ、お帰り!」
「うわっ、な、なんで今日はこんなに早いんだよっ!」
確かに珍しく早く帰ってきたことは認めるが、そもそもこの家の住人でもない人間に言われる言葉ではないというのが本音で。海馬は、思い切り不機嫌そうに眉をひそめた。
「今戻った、モクバ。帰ってきて悪かったか、城之内?」
前半の台詞は世界広しといえども、見ることができるのはモクバと青眼×3だけという貴重な笑顔で発せられたもの。後半は ―― 言わずと知れている。
「いや、そういうわけじゃないけど…今日に限って早いなんて、ズルイぜ」
そう言って本人はさりげなくのつもりなのだろう。テーブルの上に散らばったものを隠そうとしているようで、海馬は更に訝しげな視線を向けた。
チラリと見えたテーブルの上には、文房具や紙が数枚置かれていたような気がする。
(また、何か思いついたのか…?)
元々この男の考えることは突拍子もないことが多いのだが、モクバが一緒ならそう無茶なことではないだろうというのが海馬の認識である。だから、
「…何をしている?」
「ちょっと…な。もう少しでできるから」
そう言ってモクバと意味ありげに目を合わせる城之内を冷ややかに見ると、
「あまり散らかすなよ」
それだけ忠告して自室に戻った。



「…で、何だ、これは?」
部屋に戻ってシャワーをして。バスルームから出てくると、そこには城之内が待っていた。
その姿はまるで御使いでもしてきた子犬のようで。褒めてもらいたくて尻尾を振っているかのようだ。
そう、見れば ―― 綺麗に片付けられたデスクの上になにやら「作品」が置かれていて。
「栞だよ。モクバと作ったんだ。結構、よくできてるだろ?」
その語尾に、キャンキャンと鳴き声が付かなかったのが不思議なくらいだ。
だから、
「栞というのは判るが…」
そう、それくらいならその形状からも見て判る。
問題は ―― それに使われているのが、どう見たって何の変哲もない三つ葉のクローバーだということ。それに何かの意味があるなど、頭脳明晰を誇る海馬でも流石に思いつかない。
これがまだ「四葉のクローバー」というのなら ―― 占いグッズのような非ィ科学的なものを毛嫌いする海馬でもまだ判るところだが ――
尤も、常日頃から懐具合の寂しいこの男なら、その辺に咲いている草花で作るということも、らしいといえばらしすぎること。
ただそれでも、わざわざ栞にするなら、四葉のクローバーを見つけてからでもいいのでは?と思わなくもない。
そんなことを思いつつも ―― まぁ元々この男の考えること突拍子もないことが多いので、あえて聞かないでいたのだが、
「あ…やっぱり気になる? 四葉じゃねぇもんな」
そう、ちょっと照れくさそうに呟く城之内の声に、海馬はチラリと視線を向けた。
「別に。葉の数などには興味はない」
「ま、お前ならそう言うだろうとは思ったけどな」
苦笑を浮かべつつもちょっと俯いて、城之内は鼻の頭をかいた。
その仕草は ―― 照れくさいときにみせるこの男の癖で。
更に言えば、お預けを食らった子犬が、シュンと尻尾を下ろしたようにさえ見えてくる。
こうなると、飼い主としては構ってやらなくてはと思わざるを得ないところで、
「…何故、三つ葉のクローバーなんだ?」
そう聞いてやったのは、もはや義務に近い感覚である。
だが、それでも城之内には嬉しかったようで、
「四葉のクローバーの4枚の葉っぱには、それぞれ意味があるって知ってる?」
そう切り出した表情は一気にパッと明るくなった。
「ああ、「名声」、「富」、「愛情」、「健康」だったな」
「そう、それで、4つをあわせて「真実の愛」って言うんだろ?」
「…」
「それって ―― お前はもう、全部持ってるからさ」
遊戯には一歩及ばないとはいえ、デュエル界ではカードの貴公子と呼ばれる「名声」。
世界に名立たる海馬コーポレーションの若き社長という「富」。
「愛情」といえば ―― モクバと青眼に対する相思相愛は、恋人であるはずの自分だっておぼつかないほどの深さを持ってるし。
まぁしいて言えば「健康」は怪しいかもしれないが ―― 無茶をしているようで、特に重大な病気を抱えているというわけではないのも事実。
「普通のヤツなら四つ葉のクローバーに願いをって感じだけど、お前ならみんな持ってるからさ。寧ろ、ごく普通のことの方が珍しいかなと思って…」
だからあえて三つ葉のクローバーで作ってみたと、城之内は照れくさそうに呟いたが、
「でも、そんなのこそどうでもいいよな。ああ、やっぱやめた。捨ててくれよなっ!」
そういうと、クルリと身を翻して海馬の部屋から出て行った。



「全く…相変わらず勝手に話を進めるヤツだな」
勝手に完結して逃げていったが、恐らく今頃は自分で言った言葉に落ち込んでいるのだろうとは思ったが。おそらくモクバが慰めているだろうとも思うので、あえて追いかけはしなかった。
それよりも、
「勝手に捨てるな。俺のものだろう?」
そう言ってデスクに残された栞を手に取ると、
「三枚の葉か。モクバと青眼と貴様ということにしてやろう」
そう呟いた海馬の表情には、滅多に見ることのできない笑みが浮かんでいた。






Fin.

城海のつもりで書いてみましたが、海城でも通じそう。
(っていうか、そっちの方がイメージですか?)
最近、闇様やバっくんだと姫なシャチョなんですが、
城之内クンとだと、どーも男前(と言っても浅葱のではたかが知れてるけど)になります。

再放送の影響ですか?

2005.10.08.

Silverry moon light