紫01:すべり台(城之内×瀬人)


「何をしている?」
「え? あ、わぁっ!」
不意に聞こえてきたその声に、城之内はびっくりして一瞬、体勢を崩しかけた。
「脅かすなよ、海馬。落ちるところだったじゃねぇか!」
「…そんなところでボーッとしているからだろう?」
見れば ―― 辺りに車や他の人間の気配はない。一分一秒を惜しむほどにワーカーホリックな若き社長にしては珍しく、お散歩でもしていたのか?
「そーゆーお前は? お散歩中ですかぃ?」
「…」
冷たく差すような視線を一瞬だけ向けて、何も応えないというのは ―― 余り機嫌がお宜しくない時の癖である。
当たらずも遠からず。
何か思うところがあって考え事をしているとか、まぁそんなところだろう。
なにせ、プライドはエベレストよりもはるかに高い社長だ。他人に弱み ―― 別に考え事の一つや二つが弱みになるとは思えないのだが ―― を見せることを、極端に嫌うから、逆にそういう時はバレバレになってるって気が付いてはいないのだろう。
(全く、結構、正直なヤツだよな)
ククッと笑いたくなるのを必死にこらえ、城之内はスルリとすべり台を降りる。
「忙しいのか?」
「…これから会議だ」
「あ、そ。ま、いいや。ちょっと付き合いえよ」
そういうと、細い腕を掴んですべり台の階段の方へと回った。
「な、何をする?」
「ま、いいからいいから、ほら、昇れよ」
と無理やり昇らせて ―― 流石に幼児用のすべり台。いい高校生男子2人がいっぺんに昇れば、一番上は流石に狭い。
「たまには視点を変えてみるのもいいだろ?」
ちょっとだけ高いところ ―― KC本社のように、はるか彼方ではなくて、ほんの少しだけ。
でもそのほんの少しが、結構新鮮だったりするものだ。
「たまにはいいだろ? こーゆーのも」
「フン…」
機嫌が悪そうに顔を背けるが、それでいてイヤだとは言わないのだから ―― そう悪くもないのだろう。



「昇るだけ昇ったら、あとは滑って降りるだけ。うだうだ考え込むのは性分じゃねぇからよ」
「行き当たりばったりな貴様にはお似合いだな。まぁ…たまにはつきやってやる…///」
「それはありがたい仰せで♪」



男子高校生が小さな公園のすべり台を占拠。
ちょっと風が肌寒い、晩秋のある日のこと ―― 。






Fin.

楽する(滑る)ためには最初に苦労(階段)…。
う〜ん、人生だ。すべり台って奥が深いぞ。
…と思うのは私だけ? ま、いいですけど。
でも、社長は、きっと子供の頃、すべり台で遊んだこともなかったんだろうなぁ〜

2003.12.17.

Atelier Black-White