紫02:肩(モクバ&瀬人)


「お帰りィ、兄サマ」
パタパタと玄関に迎えに出ると、ちょっと疲れた顔の兄サマがふわりと微笑んで頭を撫でてくれた。
「まだ起きていたのか? ああ、明日は休みか」
「うん、兄サマも仕事は?」
「残った仕事は持ち帰ってきた。明日の昼までには片付くだろう」
「そっか…」
『無理しないで』とは言えない。兄サマはオレのために ―― 夢のためにがんばっているんだから。
でも、
『がんばってね』なんてことも ―― 言えるわけないよな。



この間、兄サマはいつもより歩調はゆっくりだけど、決して歩くのを止めようとはしない。
兄サマにとっては1分1秒だって貴重だから、歩いて自分の部屋へと向かいながら、でもオレとはちゃんと話もしてくれて、その一方でネクタイを緩めてスーツのボタンを外している。
今日は取引関係の相手の何とかパーティで、珍しく黒のタキシードに白いネクタイをつけていた。
遊戯や城之内辺りが知ったら、多分大騒ぎして写真を撮るところだろうな。
『くだらんパーティだが、今後のことを考えれば出席しない訳にもいかんな。せいぜい利用させてもらうとしようか?』
出かける前の兄サマはそんなことを言っていたけど ―― ここの所ハードスケジュールだったから、ホントは欠席にして欲しかったんだけどな。
ま、夜のパーティじゃあ、一応小学生のオレでも代わりにって訳には行かないし。
早く兄サマの片腕になってあげたいのに。いかんせん、年齢だけはどうしてもスキップしてって訳には行かないから。



そんなことを思いながら前を行く兄サマを追いかけていたら ―― ふと肩口に紅い染みを見つけた。
多分 ―― 口紅だ。真っ赤なルージュ。
兄サマってホントにもてるから…。
でも、結構潔癖症の兄サマが気が付いたら…取引先がまた一つ消えるのはちょっといただけないゼ。
「あ、兄サマ。そのスーツ、オレがクリーニングに出すように言っておくよ。すぐにシャワーするんでしょう?」
「あ、ああ…そうか。悪いな、モクバ」
そう言って兄サマはスルリとスーツを脱ぐと、オレに手渡して部屋へと消えた。



「モクバ様、そんなことは我々が…」
リビングで兄サマのスーツの染み抜きをやっていたら、慌てて磯野が飛んできた。
「いいんだ。オレが兄サマにしてあげられることって言ったら、このくらいだからよ」
そのかわり、口紅が付いていたなんてナイショだぜと共犯にしておく。



オーダーメイドのスーツは、兄サマの好みでジャストフィットに調整されている。
だから…ホント、肩のラインなんか普通の既製品よりはるかに細い。
この細い肩に何でも乗せちゃうんだよな、兄サマは。
でもいつか、きっとオレが肩代わりしてあげるから。






Fin.

新年早々、美しき(?)兄弟愛v(←なんのこっちゃ?)
でもこの口紅の痕とかが王サマや盗賊王にばれたら兄サマには災難間違いなしなわけで…。
モクバみたいな弟って、マジに欲しいなv

2004.01.02.

Atelier Black-White