紫10:右回り(バクラ×瀬人)


―― カチッ、カチッ、カチッ…
耳を澄まさなければ聞こえない ―― だが、一度耳についてしまうと振り払えないような規則正しい音を感じながら、バクラはゆっくりと身体を起こした。
「んっ…」
暗闇の中、僅かに感じる人の気配は唯一つ。
いつもならちょっと動いただけでも目を覚ますほどの浅い眠りの部屋の主だが、流石に今夜はそんな余裕などないらしい。
それほどまでにこの白い身体を貪って、貶めて、汚してやったから。
だが、
「ったく、寝顔だけは相変わらず可愛いのにな」
乱れたシーツに投げ出されるように眠りに落ちた情人は、透き通るような白皙に無数の花びらを散らしている。
お互いの汗と欲望の残滓にはまみれた肢体はゾクリとするほどに魅惑的でありながら、ついさっきまで焼け付くような熱を帯びていたとは思えないほどの冷ややかさを取り戻していた。
そのくせに寝顔のあどけなさは、起きているときの姿からは想像できないほどに幼くて。
これが本来の姿だとしたら、普段の姿は ―― 大した役者だと思う。
(しかも、ソレを無意識に演ってるってんだから、犯罪だぜ?)
尤も、その蒼に囚われ続けていることは ―― 自覚しているが。



「しっかし…」
チッと忌々しげに舌打ちしてベッドから脱け出すと、バクラは真直ぐに反対側の壁へと歩いていった。
常夜灯さえ落とした暗闇の中、僅かな頼りとなるのはカーテンの隙間から忍び込む月明かりだけ。
尤も、闇は元々己の分身と自負するだけあって、足元には全く危うさなどあるはずもない。
「フン、こいつか、さっきからカチカチと煩せぇのは」
それは作り付けの本棚に設置された置時計で、金色の秒針がその時を1つ1つ刻んでいた。
「シャチョーにしては珍しいな。アナログかよ?」
常に最先端を好む恋人だ。特に時間に関して言えば、1分1秒刻みの生活をしているはず。
とはいえ時計に関して言えば、デジタルよりもアナログの方が感覚を掴みやすいというのは判るが。
だが ――
―― カチッ、カチッ、カチッ…
「チッ…煩せぇな」
その針が確実に右回りを繰り返すように、時間は常に過去から未来へと流れていく。
取り残されているのは ―― 自分と厄介な王サマだけ。
例え輪廻の中で転生した姿と言っても、この情人が過去を懐かしむなんてことはありえない。
「…判ってるさ。アンタはいつだって前しか見てない。マジで薄情なヤロウだぜ」
3000年前の、あの熱砂の国で、囁きあった睦言なんかこれっぽっちも覚えていないだろうし。
戦乱のイングランドで忍びあった情事だって覚えているはずもない。
そんな男にまた惚れ込んでしまった自分も ―― 王サマも馬鹿だと思うけど。
「でも今度こそ ―― 絶対に終りにしてやるぜ? なぁ、シャチョー」



まずは終りにして、それから初めて『始まり』がくるから ―― 。






Fin.

訳わからんバージョン…(←あるのか、そんなのっ!)
「右回り」って言われても、「時計回りか…」くらいしか思いつきませんですよ。(苦笑)
…それでなぜ、社長がバクラの情人
もしくはバクラが社長の情人になってるかは疑問ですが…。

2004.07.19.

Atelier Black-White