紫12:水彩絵の具(闇バクラ×瀬人)


「悪ィな、シャチョー。ちょっとモデルになってくれよ」
そう言ってKCの社長室に乗り込んできたのは ―― この時間には珍しい、盗賊王の方だった。
「モデルだと? 何のことだ?」
「ん? ああ、なんでもガッコーの宿題らしいぜ。宿主に頼まれちまってな」
一応律儀に答えながらもさりげなく商談用の応接セットを占領して、真正面よりやや右斜めの位置を確保するとスケッチブックに描き込み始めた。
「おい、バクラ…」
「ああ、俺サマのことは気にすんな。シャチョーは仕事をしてて構わねぇぜ」
いつもなら構えと煩いくせに、ことが獏良に関わることなら態度も一変する。
3000年前は一国を揺るがしたほどの盗賊王と言い放つヤツではあるが、唯一、己の分身ともいえる獏良にだけは優しいのは事実。
それがたまに気に入らないこともあるが ―― そんなことを口に出すほどには躊躇って。
だが理由はともあれ、じっと見つめられていると言うのは ―― 妙に落ち着かないものである。
「そもそも、何故俺がモデルなのだ? 美術の宿題なら俺には関係ないだろうが?」
芸術は選択科目となっている童実野高校だが、いつものメンバーの中では美術をとっているのは御伽くらいなものだ。
ちなみに海馬は遊戯や城之内と同じ音楽をとっているが、授業には殆ど出たことがないと言うのが現状だ。
しかし、
「どーせ描くなら描きたいものがいいだろ? 宿主も、キレイなモノがいいって言うんでな」
「フン、くだらん理由だな」
そんなことを他愛もなく交わしながら1時間ほどで下描きを済ませると、珍しくバクラは他に何もせずに引き下がっていった。



KCの社長室を出た時点で人格を入れ替えていた獏良は、マンションの自室に戻るとドキドキとしながらスケッチブックを開いていた。
「へぇ〜、キミってホントに器用だね。海馬君、キレイに描けてるじゃない」
『まぁな』
謙遜するでもなく応えるバクラは、どこか嬉しそうな気さえしてきて、
「海馬君って、水彩絵の具の方が似合いそうだね。なんかこう…透明っぽいって言うか…」
『そうだな。』
「じゃあ、色塗りは僕がするね。お好みとかあったら聞くけど?」
『いや、特にねぇよ。ああ、そうだ。フィギアじゃねぇんだから、塗り方は考えろよ?』
「やだな、判ってるよ」
そう苦笑すると、パレットに絵の具を出して、静かに水を含めた筆で慣らし始めた。
白いスケッチブックに描き込まれた海馬はビジネスモードの白いスーツを当然のように着こなしているが、とても高校生には見えない大人の雰囲気を醸し出している。
おそらく3000年前の神官も、仕事のときはこんな風にストイックな雰囲気だったのだろうと思うと何ともいえなくて ―― だが、
『俺サマとしては…白スーツのシャチョーよりもお目覚め寸前のシャチョーの方が好みなんだけどな』
バクラが言うには海馬は寝起きが悪くて、目覚めきる寸前は幼い子供のように無防備だと言うから。
「いいね、それ。じゃ、今度はそれを描いてきてね♪」
『いや、その…』
「フフっ…判ってるよ。それはキミだけの取って置きなんでしょ?」
『ケっ…そんなんじゃねぇけどな』
そんな風に強がって見せても、躊躇いなく線を引けるほどにその姿を覚えているバクラが可愛くて、
「今度は…キミと海馬君のツーショットもいいかもね♪」
そんなイジワルをつい言ってしまいたくなる獏良だった。






Fin.

…そしてこれが王サマだと、何も着てないときが〜となるわけですね。
うちのバクラは結構器用です。
ご家庭に一人いると便利かも?

2004.08.17.

Atelier Black-White