紫13:痛いんです(クリスチャン・セト・ローゼンクロイツ)


「は…あぅっ…!」
不意に突き落とされるような衝撃を感じて、クリスは無意識にシーツを掴んだ。
「どうした、クリス? 今宵は一段と感じやすいな」
そう言って囁かれる声に心は嫌悪で支配されるが、慣らされた身体は正直だ。
殊更抉るように深く穿たれつつ、抜け落ちる寸前まで引き出され。
そんな抽出を繰り返されれば、否応が無しに身体は更なる快楽を得ようと貪欲に反応する。
「あっ…く…陛下、も…」
「もう欲しいのか? 堪えのない奴よな。まぁそういうところも愛い所ではあるが…」
獣の姿勢をとらされて、更に腰だけを高く突き上げられて。
普段の高貴な姿からは想像できないような屈辱的な姿で。
だがそれも ―― 相手が現在のこの国では最も高みにいる者であれば、従うしかないところだ。
ただ一つの欲しいもののために。
そのためだったら身体など幾らでもくれてやると。
だが ――
『やっと見つけたんだ。もう…逃がさないぜ、セト』
「ああっー!」
突然耳の奥から聞えてきたその声に、クリスは胸を刺されるような痛みを感じながら国王の欲望を受け、そして自らも解き放っていた。



たった一度の邂逅だというのに、なぜあの男の言葉がこうまで胸をかき乱すのだろう。
もどかしくて、苦しくて ―― 痛いと心が悲鳴をあげている。
だが、
「今更…俺にどうしろというのだ?」
物心着いた頃から、恋焦がれるように望んだのはただ一つのしもべだけ。
それを手に入れるためならどんな事でもやって見せると心に誓ってきた。
今更それを変える気はないし ―― 変えられはしない。



「何を考えている? クリス」
ふと気が付けば、傍らに立つのはたった今自分を陵辱した国王で。
「いえ…特に、何も…」
「そうか? どこか憂い顔に見えたが…儂の気のせいか」
そう言いながら国王は残酷な笑みを浮べていた。
(油断は出来ない。まだ…この男には利用価値があるのだから)
そう心に言い聞かせれば、自然とこの男の好む笑みも浮べる事は可能で。
「陛下が私をお気遣いくださいますか? それは何よりもうれしい事です」
そう言って嫣然と微笑めば、顎に手をかけられた。
「そなたは…誠に目が離せぬな。この身体で青眼のカードを手に入れて、次は何を狙う?」
「狙うなどとは恐れ多い。ですが次は…是非、赤薔薇の首などは如何でしょう?」
「だから戦場に出せ、か? 食えぬ奴じゃな」
むせるほどのアルコール匂いとともに口内を絡め取られ、吐き気しか感じなくても酔いしれたように微笑んで見せて。
例え選んだ道が間違いだったとしても、今更あとには戻れない。
いや、間違いなどとは思っていない。
己の選んだ道だから ―― 手に入れたものは確かにココに存在するから。
ただ ―― どうしても、心だけが痛かった。






Fin.

「Alba 〜」のクリス様ですね。
手段を選ばないクリス様が好きだーっ!
…ということで、こういう「痛い」話も好きな浅葱です。(酷!)

2004.08.23.

Atelier Black-White