紫14:バイバイ(モクバ&瀬人)


「バイバイ!」
「またねっ!」
「また、遊ぼうねっ!」
そんな賑やかな子供の声が聞こえてきて、オレはふと顔を上げた。
見れば ―― そろそろ日が沈む住宅街の小さな公園。
そこで遊んでいるのは小学生の低学年か、それとも幼稚園児位かという年頃の子供たち。
そして公園の入り口には、その子供たちの母親らしい数人が世間話に夢中になりながらも、そんな子供たちの手を繋いでいる。
中には買い物帰りなのか、スーパーの袋を提げた母親もいて。
「おかあさーん。きょうのごはん、なーに?」
「さぁ何かしら? 当ててみる?」
そんなほほえましい光景も繰り広げられていて…。
一人残ったオレは、砂の城を作っていた。



「バイバイ」の後には、ごく自然に「またね」と続けられることが多いけど。
そんなあやふやな約束など、大方が嘘であることは痛いくらいに知っていた。
オレと兄サマを今いる施設につれてきた「親戚のおじさん」も、「バイバイ」と言って行ったきり迎えになん来やしないし、引き取られていった子供たちだってみんな「バイバイ」と言って旅立って、二度とは戻ってこなかったから。



この施設にいるのは、自分達と同様に何らかの事情があって親とは一緒に暮らせない子度たちばかり。
勿論親代わりとも言えるシスターたちは規律には厳しくても、それ以外は優しいから。
だから、親がいないということは寂しかったけれど、楽しい事だって一杯ある。
ましてやオレには、顔も覚えていない実の両親よりも遥かに大事な兄サマがいたから。
だから ―― 子供を引き取りに来る大人が来るたびに、オレはいつも不安になる。
だって、兄サマほど綺麗な人を知らないし。
兄サマほど優しい人を知らないし。
どんな大人たちだって、最初に眼を止めるのは兄サマだった。
そう、今日の「お客さん」も、一番に声をかけたのは兄サマで。
そのまま応接室に連れて行かれてしまった。
「大丈夫だ。心配しなくていいから、遊んでいろ」
そう言って兄サマは頭を撫でてくれたけど。
もしかしたら、兄サマと離れ離れになってしまうかもしれない ―― と思うと、恐くて待ってなどいられなかった。



「モクバ、そろそろ帰るぞ」
ふと見上げると、そこには兄サマが立っていた。
「兄サマっ!」
「どうした、モクバ? あ、悪かったな、迎えに来るのが遅くなって」
「ううん、そんなことないぜぃっ!」
迎えに来てくれればそれでいい。離れ離れになるのだけは、どうしてもイヤだから。
だから、
「あの…兄サマ、あのお話は?」
そうおずおずと尋ねれば、兄サマは優しい笑顔で頭を撫でてくれた。
「心配するな。お前と一緒でなければ、どこへも行かない」



「残念だわ。あんなに可愛い子なのに。流石に2人ともというわけには…」
施設の前まで戻ってくると、今日の「お客さん」がシスターと話していた。
一瞬、兄サマと繋いだ手に力が入って、でも兄サマは気にしないようにニッコリと微笑んでくれる。
そして、
「さようなら」
そう言って中に入っていくから、オレも
「バイバイ」
そう言って手を振ってあげた。


―― もう二度と、来なくていいから。






Fin.

再放送のアニメで見た施設時の「笑顔の似合う兄サマv」
あのころは素直な良い子だった…外見は。
既に策士の片鱗はあっただろうと勝手に邪推の浅葱です。
…策士、好きなんだもん。

2004.08.31.

Atelier Black-White