紫16:守るべきもの(海馬瀬人)


「本当の勇気って、どんなときでも自分の手の中で命のチップを守り続けることよ!」



重苦しいまでの静けさに包まれたペガサス城の中を進みながら、つい先ほど、この俺に言い放ったあの女の言葉が胸に突き刺さっていた。
「フン…綺麗事を。所詮は負け犬の戯言だな」
長いとはいえない人生の中で、命のチップをアンティにしたのは数知れない。
そしてその悉くで勝ち残ってきたからこそ、今の俺がいる。
ヤツらのような生ぬるい「生」に浸ってなどいられない。
所詮ヤツらとは生き方が ―― 住む世界が違うのだから。
だが、
「愚かな事を…何故、俺を攻撃しなかったのだ、遊戯」
ふと立ち止まって思うのは、神聖ともいえるデュエルを放棄したヤツの ―― もう一人の「遊戯」。
そう、俺があの場所で戦っていたのは、もう一人の「遊戯」。
この俺を一度ならずも打ち負かし、敗北という名の屈辱を味あわせた ―― 生涯の敵。
ヤツならためらうことなくこの俺の息の根を止めただろうし ―― 実際、寸前まではその気だったはずだ。



デュエリストはその大小はともかくとして、誰もが何らかの「守るべきもの」のために戦い続ける存在。
俺には俺自身のロードと、そして最愛の弟モクバの存在。
ヤツにもそれなりの「守るべきもの」があったはずだ。
それはわざわざこんな孤島に来るほどの大事なものだったはず。
そう、「守るべきもの」があれば俺たちデュエリストはいくらでも強くなれるはずだ。
そしてこのデュエルは ―― たった一度の敗北がその「守るべきもの」を失う1か0の戦いだった。
だから俺が逆の立場なら、迷うことなく遊戯を崖底へ突き落としただろう。
あの生ぬるいオトモダチ連中が騒ごうが知ったことではないはずだ。
だが ――



この勝負。勝ちを譲られたとは思っていない。
命など、己の信念を貫くためならいくらでも晒してくれる。
どれだけ己の信念を貫けるか、そのための道具に過ぎないのだから。
だから、生ぬるい「生」には固執しない。
「這い上がって来い、遊戯。貴様もデュエリストの端くれなら…この俺が生涯のライバルと認めた相手なら」






Fin.

…実は、まだ再放送の第25話を見ていません。
なので、こんなシーンは…思いっきり捏造で。(苦笑)
社長にとって自分の「命」は二の次で、一番はモクバと青眼(←同率1位ということで・笑)。
…闇様は何位くらいなんでしょうね?

2004.09.22.

Atelier Black-White