紫17:青いハート(ファラオ×セト)


地中海を渡ってきたと言う商船が運んできたのは、まるで海の青を映したような鋼玉の装飾品だった。
「いかがでございましょう、ファラオ。こちらなど、世界広しと言えども、そうそうお目にかけることなどできぬ逸品でございます」
「…確かに、稀に見る大粒だな」
「そうでございましょう。私も長年数ある宝石を扱ってまいりましたが、このような逸材には無繰り合わせたことがございません。これこそ大エジプトのファラオに相応しい品かと思われますが?」
「そうだな…」
確かに稀に見る鋼玉とは思うが、そもそもユギがこの商船を王都に招いたのは宝石を買いたかったからではない。
オリエント1を誇る大帝国エジプトとはいえ、いや、だからこそこの国を狙う諸外国は常に存在して。
ましてや名君と誉れの高かったアクナムカノン王が崩御して未だ数ヶ月。
国内は安定に向っているとはいえ、まだ若すぎるファラオの存在は国の内外に要らぬ心配をかけるのは仕方のないところ。
その不安を取り除くためには、更なる安定と強国の証を見せるのが必定と言う副臣の意見を取り入れて、武器の ―― 特にエジプトでは産出しない鉄器の入手を考えてのことだったのだが、
「無論、これだけの良品となりますと、多少お値段も張りますが…エジプトのファラオともなられますれば、些細な金額でございましょう」
「…言ってくれるな、そなたも」
巧みな追従は流石に商人と言うところか。
だが、幼い頃から聞きなれている心の篭らぬ追従には、そう簡単にのったりはしないユギである。
それでも心が揺れるのは ―― その蒼があまりにもある人と重なるから。
どんなことをしてでも手にいれたいと願う、そして絶対に手に入らない孤高の恋人に。



「お呼びでございましょうか、ファラオ」
ふわりと空気が揺らいで、そこに現れたのは青い法衣に身を包んだ若き神官。
すらりとした細身の白い姿に、居合わせた商人たちも一瞬声を失った。
「おお、待ちかねたぞ、セト。丁度商人たちが参ったところでな、そなたにも一緒に見てもらいたいと思って呼んだ」
「左様でございますか。では…早速、鉄器を見せて頂きましょうか?」
勿論セトの視界にも、その鋼玉は見えているはずだというのに。
全くそんなものには興味がなくて。
「そうだな。良いものを見せてもらった。だが、俺はその鋼玉よりも遥かに美しく尊い玉を持っている。大儀であった」
ニコニコと楽しそうなユギに、そのほかの近習達も苦笑を浮かべているにも関わらず、セトだけがそ知らぬ顔でそこにいた。
それを見て、ファラオの言う鋼玉が何を示しているか、判らない宝石商でもなくて。
「それは…残念でございます。ではまた良い品がありましたらお持ちしましょう」
そう言って、思いのほか早々に引き下がったのは、その生きた鋼玉の苛烈さが、正に天上の蒼にも似た高貴さと重なっていたから。



あっさりと退出する宝石商を見送ると、ユギは自分の側にセトを招いた。
そして
「綺麗な蒼だったな。空の蒼より海の蒼より深くて澄んで」
「宝石など…買い求めたところで国の安定には繋がりません」
「ああ判っている。それに、お前の蒼の方がもっと綺麗だ。それに金などでは手に入らぬモノだしな」
「…お戯れがすぎます、ファラオ。それよりも早々にご本務に戻られませ」
そういうなり待たせていた武器商を呼びつけて、並べられた武具を検分しにユギから離れていく。
(全く…すぐ側にいると言うのに、絶対に手に入らない鋼玉だよな。その身も心も欲しいって言ってるのに、見向きもしないんだから)



空よりも蒼くて海よりも蒼い瞳の佳人。
だがその心は更に深い蒼に支配され、絶対に誰にも染められない孤高の存在。
いつかその心を溶かしてみたいと思いつつ ―― いまは側にいてくれるだけでも嬉しいユギであった。






Fin.

青(蒼)は瀬人・セト・クリスのメインカラー。
あまりにも決まりきっているので、逆に誰で書こうか悩みまくった一品です。
セト様は宝石よりも武器ですが、コレが青眼になると…v
まぁよくある話、ですね。(苦笑)

2004.09.22.

Atelier Black-White