紫20:涙の色(闇遊戯×海馬)


突然だが、無性に泣かせてみたいと思った。
勿論、「海馬瀬人」を。



「やっ…貴様…いい加減に…っ!」
掠れた声が、悲痛な叫びとなって耳に届く。
「冗談。お前だってまだまだ物足りないだろ?」
「そんなことっ…」
「まさかもう『降参』か? そんなことないよな?」
「くっ…貴様…っ」
濡れたように艶めく蒼穹が、一瞬にして射殺すような刃物に変わる。
そう、それこそが ―― 俺の「海馬」だ。



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「オレ、兄サマの涙って見たことがないんだ…」
そんなことをモクバが言い出したのは、とある昼メロを一緒に見ていたときだった。
ブラウン管の中では、不幸のどん底につきおとされた主人公が泣いていて ―― 世の奥様方も一緒になって泣いているというのが最近評判のメロドラマ。
それを ―― 仕事中という海馬を待つ間、暇つぶしに見ていたときにモクバが呟いた。
「母サマはオレが生まれてすぐに死んじゃったからよく判らないけど、父サマが事故で死んじゃったときも、兄サマは泣いたりしなかった」
前に聞いた話では、両親を亡くした海馬 ―― 当時は別の苗字だったらしい ―― は、よってたかって財産を奪っていく親類どもから、モクバを守ることだけで精一杯だったとか。
そうだろうな。いくらなんでも10歳にも満たない子供の頃の話だ。
それにあいつなら、人前 ―― 例えそれが実の弟でも ―― で、涙なんか見せるはずはないと思う。
いや、実の弟なら尚のこと ―― か?
「過ぎ去った過去など振り返らないって兄サマは言うかもしれないけど、なんかそういうの、みてる方が辛いぜぃ」
モクバにしてみれば、それ以降の海馬は泣くどころか笑うこともやめてしまったから。
この兄弟にとっては、一番辛かった頃の記憶なんだろうと思って ―― そっと鬱陶しそうな頭を撫でてやると、
「でも…もしも遊戯、お前が…!」
そういいかけて見上げた瞳は、色こそ違っても海馬によく似た真直ぐな輝きで。
「…?」
「いや…なんでもないぜぃっ!」
ぷいっと横を向いたまま、それ以上を言うことはなかった。



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「もう…やめろと…っ!」
「まだだぜ、海馬。まだ、足りない」
白くて細い身体が激しく揺さぶられて、救いを求めるように海馬が手を伸ばす。
でも ―― まだ、その蒼穹には
「もっと啼けよ、海馬。お前の声が聞きたい」
「…煩い、誰が貴様になど…ああっ!」
どんなに強がりを言っても、この身体で俺が触れてないところなんてありはしない。
だからどこを攻めれば落ちるのかなんて、手に取るように判ってるんだぜ?
「やっ…やだっ…ゆ…うぎっ!」
一番弱いポイントだけを攻めれば、元々感じやすい身体だ。すぐに陥落して涙を流して許しを請う。



もしかしたら ――
俺がいなくなったら、お前は俺を想って泣いてくれるか?
でも ―― 例えそうだとしても、その時はやっぱり俺にはお前の泣く姿は見れないってことだよな。
だから、俺はこの涙の色を覚えておこう。
この涙だけは ―― 俺が泣かせたことに変わりないから。






Fin.

…泣かせてみたいの意味が違うような気もしますが、まぁ細かいことは気にしないで、と。
時期的には、闇様が冥界へお帰り前ですか?
多分、社長は泣かないだろうと思うので。
むしろ…掘り返す? いえいえ、埋めなおす?(←ヲイ!)

2004.11.08..

Atelier Black-White