赤02:水たまり(盗賊王×神官)


何年かに一度の神事のために下エジプトに来ていたセトは、折角ここまで来たのだからと、バクラに連れ出されていた。
向かった先はアレキサンドリアの海岸。砂浜ではなく、磯の方を選んだのは ―― 手をつないで歩く口実だったようだ。
「ほら、足元に気をつけろよ。あ、なんだったら抱いてってやろうか?」
「余計なお世話だ! 一人で歩ける…わっ!」
「って、ほら、言ってる先から危ねぇじゃん。無理するなって」
「…煩い!」
変な所で意地っ張りのセトだから、手をつなぐということも本当は悔しいはず。しかし砂の上なら歩きなれていても、磯のようなところは流石に初めてで ――
「うわっ!」
「おっと…大丈夫か?」
結局、転びかけてバクラの腕に捕まれる羽目になる。



「前に、海を見たことがねぇって言ってただろ?」
何とか波打ちまで辿り付くと、バクラは腕の中のセトを抱きしめたままふと呟いた。
「そもそもアンタの行動範囲って狭ェもんな。いいとこ王宮と神殿の往復だもんな」
「俺は神官だぞ? それで充分だろうが」
「アンタ仕事しすぎ。世界は広いんだゼ。もっと周りを見てみろよ」
「フン、そんな暇があるか」
そう投げ捨てるように言いつつも、今こうしている事については深く追求しないセトである。
確かに少し前、何かの拍子に「海を見たことがない」といったような気がする。しかし、まさか自分でも忘れていたようなことをこの自称盗賊王が覚えていたというのがどこか気恥ずかしくて、だからついぞんざいな口調になってしまうのだが。



「所詮、海など大きな水たまりだろうが?」
「あのなぁ…」
「しかも塩辛くて飲み水どころか作物への水撒きにも使えんではないか」
「…ま、そういわれりゃあそうだけど…」
「まぁ、対外的には守りの一つにはなるが、こちらから攻めるには厄介だな。海戦では元手もかかるし被害も大きくなる」
と、既に話はデートというよりは政治論に移っている。
(まぁ…そんなところもセトらしいって言やあ、らしいんだけどな)
「だが…」
色気も何もない話を散々ぶつけた挙句、ふとセトが呟いた。
「確かに綺麗な蒼だな。割と気に入った」
「…え?」
「///…何度も言わせるな、馬鹿者」
サッと頬を染めたセトが、プイっと顔をそむけた。






Fin.

古代編SS第2弾。今度はバクセトです。
盗賊王は子供っぽいようで結構セトを甘やかしてくれそうで…
しかし、海が水たまりとは、流石にスケールが違うわ。
…っていうか、陸地の方がホントは少ないんだけど…。

2003.12.27.

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