赤04:サイン帳(城之内×海馬)


「ありがとう、海馬くんっ! 卒業しても忘れないわv」
「私もよ。短大生になったって、海馬君のデュエルのときは応援に行くからね!」
「あら、私だって!」
キャーキャーと煩い女どもの声にいい加減イライラしてくるが、ここで腹を立てたら集団で総締め上げは必然のこと。
だから誰も文句が言えず、黙ってみていること十数分。
(ったく〜いい加減にしろよな! 海馬がガッコに来るのは、それこそレアなんだぞ!)
心の中でさっさと出て行け〜と祈ってみても、女子高生のフルパワーの前には効果はなしだ。
大体、海馬のヤロウまでなんなんだよ! いつもなら
『煩い、死ね』
で銃を持ち出すってのに、相手が女だとこうまでサービスするかね?
ま…アレは完璧な営業スマイルだってことは判ってるんだけど…それでも何となく腹立だしいゼ。
「それはありがたい。是非、来て頂けると心強いです」
「きゃあ〜ホント? うれしいわぁ〜」
「ええ、勿論です。では先輩方も受験の方、がんばってください」
「ありがとうv。これ、お守りにするわ、私」
そういって名残惜しげではあったがやっと退散した女子高生軍団に、俺は思いっきり心の中で舌を出して罵ってやった。
(馬鹿め! お前らいいカモにされてるってわかってのかよ〜っだ!)



「…言いたいことがあったら、はっきり言え」
流石に学校に来てまでの営業スマイルはお疲れだったのか、ふっとため息を吐いた海馬がふと俺の方を見て呟いた。
「別に〜、単なるモテない男の僻みだぜ! おモテになる『カードの貴公子』サマとは違うからよ!」
三学期になると、三年生は受験真っ只中ということで学校には来なくなる。それでも一応週に1回は登校日があるわけで、今日はそれと海馬の出席が見事に重なったという超レア日。おかげで三年の先輩方(勿論女子だけ)は、卒業の思い出にとサイン帳を持ってきて、海馬に書いてくれと頼みに来たというわけだ。
何せ『カードの貴公子』と異名をとるKCの若社長だ。ミーハーな女どもに取っちゃあアイドル歌手並みのモテようなのは仕方がない。
とはいえ、絶対に断ると思ったのに…二つ返事でOKするから驚いた。しかも営業用とはいえスマイル付だぜ。同じクラスの女どもだって羨望のまなざしだったのは言うまでもない。
(俺にだって笑ってくれることなんか滅多にないのに!)
尤も、相手が三年の先輩となると文句は言えないが…。
しか〜し!
「お前がフェミニストだとは思わなかったな〜」(←嫌味バレバレモード)
「…仕事だと思えばな。営業の一環に過ぎん」
「だって、あいつらがデュエルデスクを買うとは思えないぜ?」
「我が社の製品はデュエルディスクだけではない。ファンシーグッズの顧客は8割が女子高生と女子大生だ」
…あ、そ。そーゆーことですか。流石は社長。顧客層のチェックにも余念がないようで。
それでも俺が不機嫌そうな顔をしていたら、
「何だ、貴様もサイン帳になんか書いて欲しかったのか?」
「ちが〜う! そういう意味じゃねぇ!」
「貴様が俺をおいてどこかに行くというなら…餞別にいつでも書いてやるぞ」
不意にそんなことを言う海馬の顔は、なんだか酷く辛そうだった。
まるで泣き出しそうと言ってもおかしくないほど。
そっか…そうだよな。あいつらはなんだかんだと言って、それでも卒業したらこの街から出て行くんだもんな。俺とは違う。俺は…
「…じゃ、俺には一生書いてもらうチャンスはないな。だって、お前を手放す気なんかねぇもんな♪」
そういって、人目も気にせず抱きしめると、流石に海馬はてれたように呟いた。
「…馬鹿が。物好きなヤツめ」
「ま、。それもお互い様ってことで」
「フン、まぁいい、そういうことにしておいてやるわ…///」
「ん、そうしといて♪」
そうだよな。別れる気なんてねぇもん。別れの言葉も、記念の品も要らないんだよな。
だって、大事な人はいつでも側に居るんだから。






Fin.

名前が出てないけど、城海です。
そして、何気に高校2年生。
あれ?今って3年だったんだっけ?
ま、細かいところは気にしないということで…(←またかよ!)

2004.01.18.

DayBreak