赤06:初雪(ヘンリー×クリス)


夕方から降り始めたこの冬の初雪は、夜半すぎには世界を白一色に変えていた。
いつしか舞い降りる雪もなくなりすっかり様変わりした風景は、冷め冷めとした蒼い月の光を跳ね返していた。
それは、まるで誰かのように神々しくて。
だから ―― いても立ってもいられなくて、ヘンリーはクリスのいる離宮へと向かっていた。



(もう寝てるだろうな〜)
寒さは未だに古傷に染みると言っていたのを思い出し、想像したのは布団に包まるように眠るクリスの姿だった。
高飛車で不遜で剛毅で高慢で。
普段なら人を人とも思わないような佳人であるが、寝てるときの姿は結構可愛い(←ヘンリー主観)。
きゅっと布団を掴んで胎児のように身体を丸め、縮こまって眠る姿は、まるで大事な宝物を抱え込んで眠る子供の様。
尤も、ヘンリーにしてみればクリス自体が大事な宝物だから、そんなクリスを更に抱きしめて眠るのはシアワセこの上ないというのも事実 ―― 。



しかし、訪れたクリスの寝室はもぬけの殻で、パタパタとはためくカーテンが、外の冷たい風を部屋に運んでいた。



「何やってんだ !? そんな格好じゃあ、風邪引くだろうが!」
クリスの寝室から続くバルコニーに向かえば、まるで雪の女王のように気高く美しい恋人は静かにそこに立っていた。
白い夜着に薄いストールを肩に掛けただけ。
当然、キレイな脚線美も、それどころか既に数センチは積もっているという中で、クリスは裸足で立っていた。
それでいて ―― 寒さを感じている気配はない。心はまるでどこかに預けているかのよう。
思いつめたとかいう気配も全くなく、本当にそこに「立っている」だけの姿。
でもその姿が酷く儚げで ―― ヘンリーは見つけると同時に自分のケープでクリスの体を包み、抱きしめた。
「…ユギ? 何故、ここに?」
今日は来ないと思ったのに、どうしてここにいる?
クリスはそう聞きかけて ―― それが無駄な質問であることは重々承知していた。
戦に負けた己に、勝者であるヘンリーの行動を問う権限はないはずであるから。
だから部屋に戻されるのも大人しく甘んじて、そのままベッドに押し倒されても抵抗はしなかった。



『このまま…雪と一緒に世界から消えるのも一興かと…』
そう呟くクリスの言葉がヘンリーには痛い。
「そんなことは許さない。お前はオレノモノだから…オレに断りなく消えるなんて!」



全てを覆い尽くして世界を塗り替える雪にあこがれる。
この白い雪なら ―― 汚れてしまった自分も消してくれそうな気がして。
でも ――



「お前が雪になるなら、いつでもオレの熱で溶かしてやる。溶かして飲み干して、もう二度と離してやらない」
雪のように白い肌が、ヘンリーの手で朱に染まっていく。
燃えるように熱い身体に翻弄されて、クリスは
「…そうだな、もうオレは貴様に溶かされている。もう、空には戻れない」
そう呟くと、何故か安心して眠りに付いた。






Fin.

…どこが「初雪」?お題にあってないかも。
ヘンクリは…自分で書いた話が暗いから、どーもそっち路線が印象深い。
実はコミカルも好きなのに…

2004.01.25.

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