赤15:待ちぼうけ(ファラオ&盗賊王)


夜中に忍び込むのも慣れたもので ―― 暗闇に紛れてやってくれば、その部屋の主は帰って来た気配すらなかった。
「チッ…そういやぁ、神事がどーのとか云ってたか?」
この部屋からなら、部屋の主の職場である神殿は眼と鼻の先。
その神殿が、既に日付も変ろうかというこの時間になっても妙に賑やかな気はしていた。
季節はこれから夏本番。
その前に、エジプトでは毎年恒例のナイルの増水があるわけで ――
豊穣の象徴であるそのイベントのため、神殿では祭祀が行われるのも恒例のこと。
富の有り余っているエジプト王家ではその間、国民に振舞い酒が出ることもしばしば。
おかげで町中が浮かれるのだが ―― そんな庶民の楽しみには縁のないバクラである。
尤も、タダ酒が飲めるのは良しとして。
ついでに憎っくき王家の懐を痛める手伝いができるなら本望。(と思うことにして)
正直なところ、この時期は夜になっても町中が眠りにつかなくなるので、盗賊という生業を持つバクラにしてみれば多少、仕事に差支えが出るのは事実。
おかげで昨年までは忌々しいことこの上なかったのだが ―― 今年は違った。
どーせ仕事にならないなら、普段、あまり会えない恋人とイチャつくのもいいかな、と。
但し ―― その恋人が仕事だとは思っていなかった。



―― カタン
なにやら物音がして、やっとのお帰りかと期待してみれば、窓から入ってきたのは小憎たらしいガキが一人。
思いっきり視線がぶつかって、見る見るうちに赤と紫の瞳が燃え上がる。
「な、何で貴様がここにいるっ!」
っていうか、それは俺サマの台詞だってば。
「うるせーよ、王サマ。コイビトの部屋に来て、何が悪い?」
「コイビトだとっ !? ふざけるな! セトは俺のものだ!」
「はっ? ざけるなよ。オレとアイツはラブラブのイチャイチャなんだぜぇ〜?」
「貴様〜絶対殺すっ!」
「ヒャーハハハっ! おもしれぇ冗談だぜ。やれるもンならやってみなっ!」
どーせ待ちぼうけを喰らうなら、暇つぶしに命がけのディアハも一興だぜ。



―― と、なにやら宿舎の中庭が騒がしいことに気がついて、
神殿からの帰路についていたセトがUターンして再び神殿に戻ったということは、待ちぼうけを喰らった二人にはあずかり知らぬところ…?






Fin.

誇大妄想…古代妄想驀進中。
浅葱的には、神官サマと盗賊王は同い年。
ファラオは3〜5歳くらい下です。
子供の頃の5歳は大きいから、3歳にしようかな?
(…って、いいのかそれで?)

2004.02.16.

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