赤19:四畳半(城之内×海馬)


「…狭い」
ドアを開けた瞬間、氷のような視線でそう批評すると、突然の来客はずかずかと部屋に上がってきた。
「そりゃ、お前ンとこと比べりゃ…」
「しかも、汚い。貴様、掃除くらいマトモにできんのか?」
「う、うっせい! 大体なんなんだよっ!」
って言ってる側から相変わらずの堂々しさで炬燵に入ると、
「この家は来客に茶も出んのか?」
「…淹れさせてもらいます」
この時点で俺は何も反論する気がなくなった。



たまのバイトが休みの日くらいゆっくりしようと、家にいたのがそもそもの間違いか?
(っていうか、出かける軍資金がないって言うのが本音なんだけど)
一昨日の競馬で珍しく一山当てた親父は、その金を元手に次のギャンブルにのめりこんでるみたいだからニ、三日は帰って来ねぇだろう。
勿論その金を、普段、散々迷惑をかけている息子への小遣に ―― なんてことは、俺の親父に限ってありえねぇし。
酒とギャンブルにつぎ込む金はあっても、息子の食費に回す金はないって言うのがうちの親父だ。
ま、そんなことは今に始まったことじゃねぇから、別に構わないが。
むしろ、家にいないでくれる方が落ち着く。流石に、帰って来るな!とは言わないが。
しかし、
「…欠けてるぞ、この湯呑」
「そりゃ悪ぃな。うちにマトモなものがあるとは思わんでくれ」
っていうか、コレでもマトモな方なんだから。
ちなみに自分に入れたほうは紙コップ(しかも使いまわし)だ。



それにしても…この状況ははっきり言って異常だ。
炬燵に入って欠けた湯飲みで茶を飲んでいる海馬なんて、普通、見れないと思う。
おかげで、自分の家だというのに妙に落ち着かない。
「…で、何しに来たんだよ?」
「…迷惑か?」
「トンデモナイデス」
っていうか、コイツが他人の迷惑とか、普通、考えるか?
いつもゴーイングマイウェイで、「俺のロード」驀進中の海馬だぜ?
他人の迷惑なんぞ踏みつけて蹴散らして、残骸にしてでも驀進するってヤツだぞ、いつもなら。
でも、何か今日は ―― ブリザード並のアイスブルーの眼が何となくナリを顰めていて、なんかちょっと可愛いかも?
そんなヨコシマな眼で見そうになりつつあったら ――
「バイトが…休みと聞いた」
ポツリと海馬が呟いた。
「え? ああ、休みだけど?」
「何か用事でもあるのか?」
「いや…っていうか、出かける金もないってのがマジなところ」
俺に金がないことは今更でもないから、別に隠すことでもないしな。
(ま、コイツに比べたら、この町の人間は皆、金がないってことになりかねないけど)
「俺も…今日は時間がある」
「ふぅ〜ん。何、休みか?」
「ああ、それで…貴様が…その、暇なら…一日つきあってやっても…」
そういやあ、年末年始の掻き入れから学校でもマトモに逢えないでいたのは確か。
もしかして、俺のバイトの休みにあわせてスケジュールを調整してくれた ―― とか?
「え、何、マジで?」
「何度も言わせるな、馬鹿者! ///」
カッと真っ赤になった頬は本当に綺麗で。
普段は感情の存在すら希薄なヤツだから、こんな思いっきりテレたりするのを見られると、もう可愛いって抱きつきたくなってくるぜ!



「じゃあ…どっかに出かけるか? それともここでのんびりする?」
「…貴様に選ばせてやる」
「そりゃどーも。ありがたい仰せで。じゃあ…」
立ち上がって、ちょっと考える。
そんな俺のほうを見ることもなく、海馬は目の前の湯呑を手に取った。
欠けていると文句を言った割りには大事そうに両手で湯呑を包み込んで口を付けるコイツが、なんか新鮮で ―― 。
そういえば、いつも見下ろされる方が多かったから、こうやってコイツを見下ろすのって初めてかも?
そう思ったら、わざわざ外に出て行くのが惜しくなった。
「じゃ、たまにはゆっくりするか」
「…好きにしろ」
たかだか四畳半の狭い部屋。
でも、コイツを独占できるなら ―― 十分な広さだな。
この中でなら、いつでも視界に留めておけるから ―― 。






Fin.

…乙女な社長。たまには甘えに来るのもいいかな?と
独占したいですねぇ〜。
しかし、何をするんでしょう?
これでデュエル!とかやっちゃうと、甘々ムードは粉砕確実ですね…。

2004.02.25.

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