黄02:サンダル(盗賊王×神官)


「ええぃっ! いい加減に離さんか!」
何とか秘密のオアシスまで連れ込むと、流石にキレたセトが大騒ぎを始めた。
「大体貴様、何を考えている! 俺は明日も朝から仕事だと言っているだろうが!」
「って、いっつもそうじゃねぇか! たまには俺サマに付き合えって」
「これ以上付き合えるか!」
辺りはシ〜ンと静まり返った真夜中の砂漠。はるか彼方の地平線に辛うじて街の灯りが見える程度。
あとは白い満月だけが世界を照らしており ―― それだけでも、バクラにとっては十分である。
この腕に、月より綺麗に輝く蒼穹の瞳が存在するから。
ただし、そのご機嫌は今ひとつ。
「暫く来ないと思えば、貴様はいつも突然で…」
「悪かったよ、俺サマも仕事でよぉ…」
仕事の内容については ―― 流石に言えないが。
「そんなに怒るなよ。悪ィと思ってるんだからよぉ」
と下手に出れば、結構簡単に落ちるセトだったりもする。
まぁ、綺麗な顔が怒りに満ちているのは勿体無いが ―― でも、仕事中の取り澄ました顔つきよりは、実ははるかに好きだったりして。
綺麗な蒼の瞳が、どんな宝石よりも綺麗に輝くし。
普段は無表情に近い人形のような雰囲気が、信じられないくらいに生き生きとするし。
王宮での難しい言い回しやら、神殿の訳のわからない言葉(祝詞ともいう)より、よっぽど言ってる言葉が理解できるし(怒られてることが殆どだが)。
思いっきり離せという割には、今だって自分からは離れようとしないんだから。
「…大体、貴様は…」
ちょっと拗ねたようにプイっと視線を外す仕草も、実は好きだったりする。
いつも冷めた大人の雰囲気が、信じられないくらい子供っぽくて ―― その方がはるかに年相応だと思うから。



「…で、今夜は何の用なのだ?」
散々文句を言ってすっきりしたのか、やっと大人しくなったセトがバクラの腕の中で見上げてきた。
「あ、ああ…月が綺麗だったから」
「は、なんだと? 月見ごときで俺を攫ってきたのか、貴様は!」
「うわっ、だ、だってよぉ。満月だなぁ〜って気が付いたら、逢いたくなっちまったんだから…」
再びお叱りモードに突入しかけるのを、バクラは必死で弁解した。
闇夜を照らす孤高の月。それはセトの姿といつも重なって ―― 。
仕事の最中でも、見上げる夜空の月になんど助けられたことか。
だからこんな月夜は、たまには一緒にいたいなと思ったわけで。
「ほぉ…で、俺にこの砂漠を裸足で歩けというわけか?」
そんな感慨も、地を這うセトの不機嫌な声にはすぐさま打ち消されてしまう。
「え? 裸足って…」
そういえば、寝入り端を攫ってきたのであって、当然サンダルは…
「言っておくが、つれてきたのは貴様だ。俺は一歩たりとも自分では歩かんからな!」



そういうと、それきり黙って身体を預ける。
そんな ―― 素直じゃないセトは、最高に好きだったりして。






Fin.

この2人…ある意味ウチでは一番のお子様カップルかも?
尻に敷かれてる盗賊王…貢物は千年アイテムですか?
しかし、お題とどこがリンクしてるんでしょう?
(って、お前が聞くな! ですね、はい (^_^;) )

2003.12.21.

Silverry moon light