黄03:免疫(ファラオ×セト)


「セト!」
長い廊下の先で、蹲って動かない紫の礼服を見つけたとき、ユギは一瞬、自分の体中から血が抜け落ちるような錯覚を感じた。
いつもなら堂々と威け高でさえある苛烈な大神官である。その態度は自他に厳しく、孤高で、唯一膝を屈するのは、神の御子であるファラオの前だけであったはず。
それが ――
つい今しがたの酒宴で、ファラオの暗殺未遂が発覚した。
ある者から献上された杯に毒が仕込まれており、あやうくそれをファラオが呑むところだったのである。
それが未然で発覚したのは、その杯が実は2杯で一組になったものであり、先に同席していたセトが口にしたからだった。
酒宴にセトが同席することなど滅多にないことで、ついその美しい姿に見とれていたから飲むのが遅れた ―― というのが、事実であるが。
『神官たる者、毒には身体を慣らしてある。殺し損ねて残念であったな』
そう言い放ち犯人を糾弾すると、何食わぬ顔で席を立ったセトであったが ―― その毒は零れた酒を舐めた猫がその場で息絶えたほどに強いもの。
いくら身体を慣らしてあると言っても ―― すぐにその場で解毒剤を飲めば良いものを、絶対に人前では弱みを見せたがらないセトである。
宴の席から下がったのは、全ての後始末を自ら指示しそれを見届けてからで、当然その間に毒は体内で猛威を振るっていたはずである。
勿論そんな素振りは、欠片ほども見せはしなかったが。
「大丈夫か、セト? ったく、無理しやがって…」
王宮の奥深いこの場所では、人目はないに等しい。だからユギもいつもの口調に戻っていたが、
「…何しにきた? こんなところに来ている場合ではないだろう?」
セトの方も弱々しいながらもいつもの口調である。
「ああ、心配するな。毒を盛ったヤツなら地下牢に閉じ込めてやった。今頃はアクナディン達が尋問中だ」
「貴様は同席しないのか? 王の責はどうした?」
「言ったろ? 地下牢だって。不浄な所はファラオの来るところじゃないって追い返されたゼ」
それが、神官団の好意である事は十分承知している。
ユギにとってセトは、ただの神官ではなったから。
そのことはエジプト王家に関わるものなら誰でも知っていることあったから。
そしてそれを、忌々しく思いながらもセト自身も気付いていたから。
「ふん、余計なことを…毒は慣らしてあると言っただろう? こんなもの、一晩寝ればすぐに抜けるわ」
口調はいつもの通りのきついものであるが、流石に迫力は比べようがないほどに落ちている。
実際にユギが差し伸ばした腕を振り払って立ち上がりたいところだが、それさえできないのが事実であった。
だから、
「そっか、判った。じゃあ、今夜はオレが付きっ切りで看病してやるな♪」
そういうや否やユギはセトを抱き上げた。
「な、何をする!」
驚いたセトが暴れて逃げようとするが、当然そんな体力など既に尽いてしまっている。
「何って、だから看病を…」
「貴様の看病などいらんわっ! 離せ!」
「オレじゃなかったら誰に看病してもらう気だよ? 大体こんなイロっぽい姿、他のヤツに任せられないだろ? 体力の落ちてるところを襲われたらどうするんだ?」
「そんなことをするのは貴様だけだっ!」
「仕方がないぜ。お前の色気には免疫が付かないんだからな♪」






Fin.

セト様フェロモン全開中〜
これには流石のファラオも耐性なしですか?
弱ったところを襲うなんて邪道なこと、しちゃいけませんよ…。

2004.01.12.

Silverry moon light