黄07:手土産(盗賊王×神官)


連日の祭事にようやく一区切りがついて、セトが神殿の隣にある宿舎に戻ったのは実に3日ぶりの事だった。
元々寝るだけにあるような部屋だから、粗末なベッドに造りつけの机がある程度 ―― のはずだったが、



「よぉ、遅かったな」
自室のドアを開けた先には、何故か足の踏み場もないほどの金銀財宝に豪奢な服。そして、白い髪に紫の瞳という、見まごうことなき ―― 盗賊王。
「…何だこれは?」
寝不足で不機嫌な上にこの有様で、セトの機嫌はますます急降下していく。
しかし、そんな事には一切構わないバクラは、
「些細な手土産。ま、今回の稼ぎのほんの一部だけどよ。足りなきゃまた明日持ってくるぜ♪」
「いらんわっー!」
ええい、邪魔くさいっ!といわんばかりにずかずかと踏みつけて入ると、セトは手当たり次第に床に散らばった品々を窓から放り投げた。
「あ、そりゃあひでぇぜ、セト。せ〜っかく俺サマが百選吟味して揃えたってぇのによぉ」
「馬鹿者っ、どうせ盗品だろうが! しかも…何だこれは。どー見ても女物ではないかっ!」
「だって、お前に似合いそーだったから。ほら、これなんか良くねぇ?」
と性懲りもなくバクラが勧めるのは ―― 旅の踊子が着るような大胆なスリットが入った薄布の衣装。
当然、セトが怒りを爆発させるのは目に見えている。
「貴様〜この俺を何だと思って…」
「いや、だって、ぜってぇ似合うって。俺が保証する」
「保証するなーっ!」
叫びとともに怒りの鉄拳が炸裂し、バクラは間一髪で避ける。
「うわっ、ちょ、ちょっと待った。セト、落ち着けって」
「煩い、死ね!」
更に愛用の千年錫状が逃げるバクラを追って空を切り、その上手当たり次第、落ちている金や銀の装身具を投げつけまくる。
「やべぇって! 黄金ってぇのは当たると痛いんだぞ!」
「それがどーしたっ! 二度と痛みも感じぬように、息の根も止めてくれるわっ!」
「ひィ〜、落ち着けって、セトー!」
どたばたと繰り広げられる大騒ぎに、ああ、またかと、隣室のマハードが再び神殿に向かったのは言うまでもない。



やがて ―― 投げつけるものが殆どなくなると、流石にセトも息が切れたのか、ゼーハーと肩で息をつきつつ部屋の中央に座り込んだ。
「お、落ち着いたか? セト」
どれもこれも間一髪で逃げ回っていたとはいえ、流石にバクラも息切れがしている。
しかし、そのバクラを忌々しく睨み上げるセトの表情は決して緩む事はなく ―― そのまっすぐな瞳は、どんな宝玉よりも気高く輝き、見るものを魅了してやまない。
「貴様…ちょこまかと逃げおって…」
「だってよ、当たると痛いぜ」
「フン、小賢しい…」
「ま、そう言うなって」
口調は相変わらずの通りだが、これだけ動き回ったせいか殺気は既に消えている。
だからバクラもセトのすぐ側に座り込むと、
「ま、冗談はこの辺にしておいて、ほら、マジに土産だゼ」
そう言ってセトの手に乗せたのは ―― 陶器でできた小さな白龍の置物。
それを見た瞬間、セトの雰囲気ががらりと変わる。
「セリカの土産だぜ。西を守る守護神なんだと」
「そう…か」
何せドラゴン好きのセトのこと。これを市場の店先で見つけた瞬間、これだ!と叫んでいたのは紛れもなく、
(大体盗賊王の俺サマが、わざわざちゃんと金を払って買って来た唯一のモノだぜ?)
大事そうに両手に乗せて見入っているセトは、はっきり言ってバクラも視界に入っていない。
しかし、
「フン、貴様にしてはいい趣味だな。誉めてやるぞ」
「そりゃどーも」
「そ、それとだな…その…」
何となく頬が赤い気がするのは ―― 気のせいではないはず。
そして、消え入りそうな小さな声で囁いたのも ―― 。


「…お帰り、バクラ」






Fin.

最近の浅葱の古代エジプトにおける傾向…
青眼>>>ファラオ≧バクラ
で、今回はバクセトでラブイチャ(?)です。
思うに、盗賊王はファラオよりもセトに甘えるのは上手そうかなと。

2004.03.23.

Silverry moon light