黄10:目覚まし時計(闇遊戯×海馬)


スッと腕の中から抜け出す気配に、遊戯は目を開けた。
カーテンの開け放たれた窓からは、下弦の月が白い光を差し込めている。
そんな薄闇の中に紛れようとする海馬に ―― 声より先に身体が反応した。
「何処へ行く?」
細い腕を掴んで引き止めれば突然の行動だったにも関わらず、
「…何だ、起きていたのか」
白い素肌を惜しげもなく晒してベッドを離れようとする海馬は、驚いた素振りも見せずに呟いた。
「離せ、仕事だ」
「仕事? こんな時間からか?」
腕は掴んだままベッドサイドの時計を見れば、時刻はまだ夜明けには程遠い。
もともとワーカーホリックな恋人であるから判らないでもないが ―― それにしたって睡眠不足は目に見えている。
「お前、碌に寝てないだろう?」
そう言えば海馬が思いっきり不機嫌な顔になっている事は、この薄闇の中でも手にとるように判るというもの。
案の定、返された言葉は酷く不機嫌で、
「…寝かせなかったのは貴様だろうが」
「ま、それもあるけど…でも明日は日曜日だぜ?」
「休日出勤など珍しい事ではない」
とにかく、いいから離せと腕を振り払おうとする海馬を遊戯は難なく押さえ込み、再びベッドの中へ引きずり込んだ。
「貴様…離せっ!」
「ったく、暴れるなって。まだ夜明けまで時間がある。もうちょっと寝てろ」
「余計な世話だ! 仕事だと言っただろうが!」
「社長が勤務時間を守らないと、付き合わされる部下が可哀相だろ? せめて夜が明けるまでは寝てろ!」
身長では適わないが、力技なら遊戯に分がある。
それでなくてもつい先ほどまでの情事で体力は尽きているはずで、白く細い身体を組み敷くと噛み付くように唇を重ねた。
「やっ…」
洩れる言葉は既に艶めいて、火がつくのは時間の問題 ―― 自分も海馬も。
薄い唇を割って舌を絡ませ、散々に口腔を蹂躙すれば、海馬の身体からは魂が抜けるように抵抗が静まっていく。
但し ―― 見上げた蒼い眼だけは、変わらずキッと睨みつけているが。
「あんまり暴れるなら…明日の朝、起きれなくなるようにしてやろうか?」
漸く唇を離してそう言い放つと、流石にその意味を理解してか、海馬はビクッと一瞬たじろぎ ―― しかしすぐに不敵な笑みを浮かべた。
「フン、まぁ良いわ。もう少し付き合ってやろう。但し、きちんと睡眠は取らせて貰うからな。俺の眠りの邪魔をしたら、永遠の眠りに付かせてくれる」
「チッ、まぁ、しょうがないな。その代わり腕枕してやるぜ。それくらいは良いだろ?」
「…腕枕だけだな?」
「はいはい…(多分、な)」
遊戯の答えなど信用できないが(本人も相手が海馬であると信用できないらしいし)、一応確認しておいてから渋々と腕に頭を乗せる。
だがすぐに、思い出したように身体を起こした。
「目覚まし時計を仕掛けておけ。5時には起きるからな」
「5時? せめて7時にしろよ」
「そんなに寝てなどいられるか。5時だ」
サイドテーブルは遊戯の側にあって、海馬が手を伸ばそうとするから、とっさに目覚まし時計を手に取った遊戯は、
「んじゃ…間を取って、6時」
そういうと、時計のアラームを6時にセットした。
「…勝手にしろ」
こんなじゃれあいをしている暇があったら少しでも睡眠をとったほうがマシ ―― と、思ったかどうかは定かではないが、割りに大人しく引き下がると、海馬は遊戯の腕を枕にしながら背を向けてベッドにもぐりこんだ。



やがて ―― 小さな寝息が聞こえ始めると、遊戯はそっと時計のスイッチを切って海馬を背中から抱きしめた。
「たく、たまには寝坊も良いもんだぜ♪ ゆっくりおやすみ…」






Fin.

…で、目が覚めたら10時とかで、闇様は思いっきり社長に怒られるんでしょう。
下手すれば暫く屋敷から締め出しですか?

イメージとしては、社長って低血圧っぽいんですが。
寝起きとか弱そうですよね?(って誰に言ってる?)

2004.04.12.

Silverry moon light