黄14:華奢な指(ヘンリー×クリス)


扉が開いた瞬間、大聖堂にいた全ての者はその姿に魅了されていた。
純白のローブデコルテをたおやかな身に纏い、細い首には瞳の色に合わせた大粒のサファイアのネックレス。
柔らかい栗色の髪にはダイヤを散りばめたティアラを抱いていた。
その豪奢な装いもさることながら、誰もが息を呑まずにいられないのは ―― 真直ぐに前だけを見つめる蒼穹の瞳。
好奇に満ちた観衆の視線など羽の先ほども受け付けない凛とした気高さ。
確かに類稀な美貌であることも事実であるが、それ以上に思い知らされる絶対の気品に、この政略結婚を良く思っていなかった者達も、否の言葉自体を封じ込めていた。
正に ―― 生まれながらの女王の気品であるのは間違いないから。
例えそれが ―― 実は男であっても。



「この日をどれだけ待ち望んだかしれないぜ、クリスv」
不本意ではあるが祭壇の前まで来ると、そこにはこの茶番を仕組んだ男が満面の笑みで待ち構えていた。
ヘンリー・ユギ・チューダー
現在のイングランド国王、その人である。
その紅い瞳に見つめられて、クリスの白皙にうっすらと朱が走ったのは見間違いではないだろう。
しかし、
「…貴様の悪知恵には、ほとほと呆れたわ」
桜色の唇から零れるのは、忌々しげに呟く呪詛にも近い台詞。
いつもならよく通る声も流石に今日は控えめであるが、それでもその不遜さは半減することはない。
おかげで式を執り行う大主教の方がたじろぐが、そんなことを気にする2人ではなかった。



ついこの前まで、敵味方として戦場で相対していたのは周知のこと。
その容赦ない攻撃に、痛い目にあったものはこの参列者の中にも存在するし、未だ悪夢から覚めやまぬ者がいると言うのも噂に高い。
そのために ――
幾ら王位の正当性を証明するためと言っても、ヨーク家の最高司令官であったクリスを王妃に迎えると言うことは、チューダー家に忠節を誓った貴族の間から反対が出るのも仕方がないことである。
しかし、この絶対の「対」を目の前にしたら、否といえるものなどいるはずもない。
それほどまでの「絶対」で、それほどまでの「相応」であったから。



「こちらへ…クリス」
手を差し伸べれば、一瞬の躊躇を見せながら、クリスはヘンリーの手に自らの手を重ねた。
敗者は勝者に従う。そんな理由は、もはや念頭にはなかった。
ただ、自分にだけ差し出された手だから、取ったまでのこと。
それがいいことか、悪いことかも関係ない。
選んだのは自分。決めたのも自分。
共に生きる強さを求めてもいいだろうと思ったから ―― 。



伸ばされた手を取って、二度と離さない。
その誓いの証に ―― 華奢な指へ、プラチナのリングを嵌めて。
ヘンリーは全ての思いを込めて囁いた。


「forever loving you, until death do us part.…」






Fin.

…SSで結婚式を書くとは思わなかった。(苦笑)
でも「華奢な指」っていったら、ディスティニードローか結婚指輪しか思いつきませんでした。
で、最近微妙にヘンクリ・Loveなのでこっちへ。
この続きは…あるんですか? 聞いてないよ!(←ヲイ!)

2004.04.27.

Silverry moon light