黄16:賞味期限(W獏良)


『じゃ、あとはお願いね♪』
と掃除道具一式を出すだけ出したら自分は奥に引っ込んでしまった宿主に、リングに宿るバクラは思いっきり溜息をついた。
佇む部屋は、それこそ言葉の通りに足の踏み場もないほど。
これが夏の盛りだったら、恐らく今頃は悪臭で警察沙汰になっていてもおかしくはなかっただろう。
確かにバクラが寄生しているこの宿主、獏良 了という人物は、手先は器用なくせに何故か後片付けというものが全くできなくて ―― というか、「整理整頓」とか「後始末」とか「掃除」とか。そう言ったものがあること事態知らないのでは、と思いたくなるほどの…で、
「おい、宿主! なんだよ、コレ !?」
『なにって…だってキミ、暫く留守だったから』
「って…たかが一週間やそこらだろうが?」
『そうだよねぇ〜。でも、下手に僕が触ると、もっとひどいことになりそうでしょ?』
とまで言われると、確かに一度えらい目にあっているバクラとしては反撃もできない。
『ちゃんと、なぁ〜んに触ってないから。じゃ、宜しくね〜』
表向きは天使の微笑み。コレに騙されて何かと世話をしてくれる女もいたらしいが、流石に部屋まで連れ込むことはできないらしい。
(ってぇか、どんな女でもコレをみたら、ぜってぇ引くわ)
『なぁに? 何か言った?』
「イエ、ナンデモ」



冷蔵庫を開ければ、流石に腐ってはいないが、それでも大半の食品は既に賞味期限切れである。
金には困っていないから、別に捨てるのは構わないのだが ―― だがやはり、食べ物を粗末にというのは何となく気が引ける。
わずかな記憶の片隅でも、飢えて死にかかったときの苦しさや空しさは、何となく覚えがあるから。
だから、確実のヤバイと思えるものは処分したが、まだ大丈夫かもと思えるものはキッチンに並べておいた。
すると、
『え? 捨てないの?』
見てるだけに飽きたのか ―― それとも今夜の夕飯が気になるのか ―― 心の奥から宿主が顔を出す。
「食い物を粗末にしちゃ、まずいだろ?」
『まぁそうだけど…賞味期限が切れてるんでしょ? ちょっと、今日の夕飯にしないでよ。僕はキミと違ってデリケートなんだから』
「あのな、オレ様だってグルメだぜ」
じゃなかったら、自分でメシを作ったりするかと呟いて。
『じゃあ、どうするの?』
としつこく聞いてくる宿主に応えた。
「城之内辺りに食わせてやればいいだろ? ヤツも食い物にありつけるわ、こっちも片付くわで一石二鳥だろ?」
我ながらいい考えとほくそえむが、次の一言で顔色が変わった。
『ふぅ〜ん。でもそれで城之内君がおなか壊したりしたら、海馬君が二度とキミの作るものを食べてくれなくなるだろうね』



翌朝、久しぶりのエサの豊富さに喜んだのは、近所のカラスと野良犬だった。






Fin.

賞味期限…普通は城之内ネタかな?と言う気がしたのですが、
彼の家では賞味期限まで残るような食べ物はないだろうと。(酷っ!)
その点、獏良は後先構わず買って、腐らせるタイプかなぁ〜と。
(獏良Fanの方、申し訳ありません)

盗賊王は結構グルメで、味には煩そうな気がするんですが、さて、どうでしょう?

2004.05.05.

Silverry moon light