黄18:方向オンチ(神官セト)


気がつくと ―― セトは「そこ」にいた。
「ふむ…どうやら道に迷ったらしいな」
夜ならば星の位置で方角も判るのだが、流石に真昼ではそうはいかない。
辛うじて幸いだったのが、立ち止まった場所は小さいながらもオアシスで、水の心配はしなくてもよいということくらい。
尤も、このままここでずっと暮らす訳にもいかないから、いずれは立ち去らねばならない場所である。
そうすると、次はいつオアシスにたどり着けるか判らないから、水の確保は絶対である。
しかし、手持ちの荷物にはそんな気の聞いたものはなく ―― というか、何も持ってきていないのだ。
そもそも、何故こんなところにいるのかと考えれば…
「…それもこれも、あの馬鹿王子と気狂い盗賊とボケなマハードが悪いのだ!」
ということである。



春から初夏に向けてのエジプトは、はっきり言って神官の書き入れ時。
あれやこれやと祭事が重なり、優秀な神官ほどあっちこっちから祝辞の依頼がやってくる。
ついでに言えば、それはいくら優秀でも、年食ったオッサンよりも若くてピチピチの究極美人にオファーが集まるのも当然のこと。
おかげで、セトはそれこそ寝る間もないほどの大忙しだった。
流石に、上エジプトから離れることは王子が許さず、出張は日帰りがメインではあったが。
だが、忙しいからと言って、どんなに馬鹿馬鹿しい祭事でも手を抜くなんてことはしないセトだから、当然削られるのは睡眠時間。
だが ―― その貴重な睡眠時間に狙ってやってくる馬鹿と気狂いがいるわけで ――
あまりにも煩いからと、一応同僚であるマハードに「何とかしろ」といったのが不味かった。



『要するに、一人でゆっくりできるようにすればいいんですね?』



「…こんなところでゆっくりしておったら、干からびてミイラになるわっ!」
と怒鳴ったところで ―― 肝心のマハードがいないのだから仕方がない。
馬鹿王子と気狂い盗賊を何とかしろという意味で言ったのに、何をトチ狂っているのだ、あのボケは!
そもそもここはどこだ! 場所くらい、ちゃんと伝えて行かんかっ! …等々。
何となく暑苦しくて起きてみたら砂漠のど真ん中で、いつものクセで薄布を掴んで寝ていたから良かったようなものの、この布ももっていなければ、今頃盛大に肌を赤く染めて、火ぶくれ状態になっていたのは間違いない。
まぁともかく、東を目指せばナイルの支流につくだろうと思ったのだが ―― 。



一方、王子と盗賊王に半ば脅迫されて、セトの居場所を白状させられたマハードは、昨夜セトを案内した(つもりらしい、本人は)場所にやってきたものの、そこに誰もいないことに唖然となった。
「周りは砂漠だから動かないで下さいねって言ったんですよ!」
と必死の弁明をするマハードだが、
「アイツがこんな何にもないところでジッと、なんてありえるわけないからな」
「今頃は自力で脱出してるんじゃねぇの?」
「そうだな…問題は、ここがナイルの右岸だってことなんだけど…」
ここから西に流れる母なるナイルを見ながら、そんなことを王子が呟いたとかいないとか?






Fin.

…ということで、方向音痴なのは結局誰なんでしょうね?。
うちのマハードには、表ちゃんの性格が少〜し入っているつもりで、結構、こき使われてます。
アニメでも原作でも苦労してるのにねぇ〜。

2004.05.12.

Silverry moon light