黄20:出口(盗賊王×神官)


「フン、ちゃちな仕掛けなんぞしやがって。このオレ様が引っかかると思ってんのかよ?」
不敵な笑みは邪悪に満ちて、かつての叡智を片っ端から打ち砕く快楽に酔いしれる。
入り組んだ迷路も迷うことなくかつての王の玄室に向い、欲しいものを全て奪った盗賊王は意気揚々と凱旋の途中だった。
と、その時、
―― ガラガラガラ…
突然、玄室の入り口が崩れ、辺りは漆黒の闇に一変する。
一瞬にして辺りは伸ばした自分の手の先も判らないほどの漆黒の闇に包まれ、遙か彼方からは時折、野犬の遠吠えさえ届いていた。
この闇の中で感じるのは死霊たちの呪詛の声。
普通の人間だったら、あっと言う間に気死してしまうことだろう。
だが ――
「…上等じゃねぇか?」
不敵な笑みは怯えることを許さず、困難は生き延びるためのスパイスにしかならない。
バクラは何の躊躇いもなく闇の中を突き進むと ―― はるか前方に一条の光を見つけた。



中空には冴え冴えとした下弦の月。
岩と岩の間にできた隙間から、蒼い光が差し込めている。
折れそうなほどに細いのに、その輝きは夜空に追従を許さず ―― まるで誰かを思い出して、バクラはニヤリと笑った。
誰にも屈せず、何者にも恐れず、己の信念のみを糧に生きる孤高の佳人。
闇に愛されるからこそ美しく輝くその姿に暫く見とれていれば、無性に逢いたいと思ってしまう
「くそっ…逢いてぇな。ちゃっちゃと片付けて、夜這いでもかけてやろうか?」
「そこから無事に出られるのであればな」
不意に聞こえてきた鈴のような美しい声。それは間違いなく ――
「ああ? セト…かよ? なんで神官サマがこんなところに?」
「そういう貴様は似合いの場所だな。このまま生き埋めにしてやろうか?」
岩と岩の隙間から眼を凝らせば、思い描いていた佳人がいつもの法衣ではなくシンプルな夜着一枚で笑っている。
(どうせあの王サマあたりから逃げてきたんだな…?)
とは思ったが、あえてそれは口に出さず ――
「オレ様がいなくなったら寂しいだろ? 特に夜なんざ…」
「ば、馬鹿を言うなっ! 誰がそんな」
「ケっ、素直じゃねぇな。待ってろ、すぐに可愛がってやるよ。ちょと下がってな」
そう言って精霊獣を呼び出すと、バクラは一気に脱出を図った。



「な、ご褒美にちゅーは?」
「何がご褒美だっ! 貴様は国賊だろうが!」
「ま、いいか。やっぱアンタはサイコーだぜ♪」
「ええい、放さんかっ!」
「やだね。あーマジ、いい匂いだな、セト」
「や、やめっ…どこを、触って…あっ…」



漆黒の闇がどんなに包んでも、この蒼だけは犯せない。
永遠の闇も、果てしない虚無も打ち砕く絶対の存在。
それが、全ての迷いから解き放つ出口であるから ―― 。






Fin.

…王様の夜這いから逃げてみたら、盗賊王のクモの巣に引っかかったらしいです。
声をかけなきゃ逃げれただろうにとも思いますが、ま、そこは学習能力のない神官様なので♪
ところで、青眼で来た筈なんですが…あれ? 忘れてた…(汗っ)

2004.05.26.

Silverry moon light