01.ダイレクトアタック (闇遊戯×海馬)


草木も眠る丑三つ時
童実野町でも最も広大な敷地を持つ海馬邸の一画に、カッと蒼い光が走った。
「滅びのバーストストリーム!」



「ったく、危ないヤツだな、相変わらず…。 窓を開けてたから良かったけど、ヘタすりゃで割れて木っ端微塵になるところだぜ?」
紙一重 ―― 実際は、その奇抜なヒトデ頭(←命名:海馬)をかすりながら ―― なんとかその光の渦を避けた闇遊戯は、本心は冷や汗モノだったにもかかわらず、表向きはあくまでも何事もなかったかのような余裕の表情で呆れて見せた。
「窓ガラスの1枚や2枚など、どーでも良いわっ! それよりも避けるなっ!」
見れば ―― 片やいつものシルバーチェーンをじゃらつかせたボンテージ系ファッションの闇遊戯に引き換え、この部屋の主でもある海馬のほうは手触りのよさそうなバスローブ一枚というなんともいえないシチュエーション。
しかも、洗いたての栗色の髪がしっとりと濡れ、あわせた胸元は緩く肌蹴て ―― と、これが誘っていないだなんて思えるはずがないぜ! というのが闇遊戯の主張らしい。
「そんなわけいくか。それよりもお前、、折角マインドクラッシュから立ち直ったってのに、全然、学校に来ないじゃないか。ずっと待ってたんだぜ?」
「仕事に決まっているだろう! 俺が目を放したすきに海馬コーポレーションを操っていたものどもが馬鹿ばかりだったんだ。おかげで立ちなおしに手間がかかり、学校どころではないわ!」
とはいえ、漸く先が見えてきたからこそ久しぶりに自宅でゆっくり睡眠を取ろうと思ったのに ――



既に日付が変わってから帰宅して、シャワーを浴びてすっきりしたところまでは快適だったのだ。
その機嫌が急転直下した理由はただ一つ。
バスルームから出て来たら ―― 何故かバルコニーに続く窓が開け放たれ、そこには妙な自信に満ちた闇遊戯の姿があったのだった。
「…何のようだ?」
「ん? ちょっと夜這いに♪」
「なん…だと?」
余りに直撃な物言いに、大抵のことでは驚かない海馬も一瞬息を飲む。
「何をふざけた事を…」
「ふざけてるつもりはないんだけどな」
そう言いながら、ズカズカと近づいて ―― あっという間に唇を奪う。
「やっぱ、綺麗だよな。海馬の眼って。コレだけ近くで見れば尚更吸い込まれそうだぜ」
「なっ…何をするっ !?」
あまりに突然のことで咄嗟に反応できなかった海馬は、真っ赤になりながら唇を左手で拭い、闇遊戯から逃れようとした。しかし、
「いい匂いだな、海馬」
ふわりと抱きしめて ―― 海馬よりは遥かに低い身長ながら、どこにそんな力があるのだと思うほどにその腕が解かれることはなく、
「ええいっ! 放せっ! 放さんかっ !!」
「ヤダ」
「キシャアーッ!」
何故か実体化している青眼も ―― バーストストリーム準備OKではあるが、海馬に離れない闇遊戯相手では撃つに撃てないと言うところで、威嚇のうなり声をあげるしかないようだ。
「海馬」
不意にマジメな声で名前を呼ばれ、不覚にもドキっと心を掴まれた。
「好きだぜ、海馬♪」
「 ―― ///」
いつにない真摯な紅い瞳に、海馬の白皙がほんのりと朱に染まり、抵抗する力が一瞬弱まる。
「…遊戯…」
綺麗な唇にキスをして、白い項に口付けて。
硬直したように動かない海馬の耳朶を軽く噛めば、細い身体がビクンと震えて、縋るように闇遊戯の背中に腕が回される。
柔らかい栗色の髪も、白磁のように白い肌も。全てが愛しくて、大切で、自分のものだと世界中に言いふらして回りたいほど。
だから ―― 大人しくなった海馬に気をよくした闇遊戯は、
「…ということで、今夜こそ、愛を確かめ合おうぜ♪」
と、バスローブのベルトに手をかけようとしたその時 ――
―― バキっ!
「こ、この…たわけっ ―― !」
思いっきり海馬の右ストレート闇遊戯の頬に炸裂していた。



「あ〜もう、この頬の痛みさえ愛しいぜ☆」
腫れあがった頬に手を当ててうっとりとする闇遊戯に、肝心の表遊戯は冷めた口調で呟いた。
『もう、いい加減にしてよねっ!』
1つの身体を2人で共有しているのはいいのだが、謂れのない怪我で痛い思いをする気はないらしい。
『とにかくっ! 腫れが引きまではちゃんと責任取ってよね! ボク、痛いのは絶対やだからね!』
プイッと心の奥に引きこもってしまう大切な相棒に(一応)悪いとは思いつつも…。
何事にも真直ぐで、ほかのどんなゲームにも百戦錬磨の孤高の恋人。
そんなゲームの達人のような恋人なのに、自分の心をアンティにした「恋のゲーム」になると、ゲームの成立そのものが怪しいことこの上ない。
トラップカードも魔法カードも問答無用で無効にしてしまうから ―― 。
「よしっ! やっぱりダイレクトアタックあるのみだぜ!」



『それはヤメロって言ってるのに…』
そんな表遊戯の呟く声も、このわが道を行く3000年前のファラオの前では何の意味も待たないようだった。





Fin.

…実は学会の講演の最中に書いていたというヤツです。
浅葱的には、王国のあとバトルシティ前で。
まだ闇様が口説いている最中の頃という設定で。
…天然な社長って好きだわ♪

2004.05.18.

Atelier Black-White