03.保健室 (闇遊戯×海馬)


久しぶりに姿を現した海馬は ―― どこか壊れそうなガラス細工に見えた。



「なんか顔色が悪いよ、海馬君?」
そう言って遊戯が海馬の額に手を当てようとすると、容赦なくバシッと振り払われた。
「余計な世話だ」
蒼い瞳が突き刺すように睨みつけ ―― まるで手負いのネコのよう。ただしこのネコには、敵に噛み付く牙も容赦なく引き裂く爪も標準装備である。(ついでに最強の守護者も…。)
ここ連日、新型デュエルディスクの開発とやらで多忙を極めていた海馬が学校に姿を現したのは、実に1ヶ月ぶりというタイムラグで。だが、相変わらずの傍若無人ぶりは健在で、授業が開始されようが教師が名前を呼ぼうがお構いなしでノートパソコンのキーボードを叩いている。
もちろん、休み時間も継続中だ。
「全く、何しに来てんだかわかんねぇヤツだな」
そんなことを呟きながら、触らぬ何とかに〜と遠巻きにしている城之内や本田だが、表遊戯は気にかかって仕方がないようだった。
「ねぇ、無理しない方がいいんじゃない?」
「煩い。貴様に言われるまでもないわ」
仕事と学校なら間違いなく仕事を優先させる。だが、時間の許す限りはなるべく学校に顔も出すから、どこかで無理が出るのは至極当然のことだと思う。
久しぶりに顔を見れたのは純粋に嬉しいが、でもこんなに具合の悪そうなところは見たくない。絶対に体調が本調子でないことは明らかであるし、顔色の悪さは更に色を濃くしていくようだから。
そして、
「海馬君、次は体育だけど…」
「…判っている」
忌々しそうに電源を切ってパソコンを閉じると、海馬は席を立ち ―― そのままクラリと身体が揺れた。
「海馬君っ !?」
見れば ―― それでなくても白い貌は血の気を失って青ざめて、触れた身体は燃えるように熱くなっている。
「ちょっと、海馬君、熱があるんじゃ…」
「…触るなっ!」
振り払おうとする腕を逆に捕まえれば、それこそちょっと力を入れれば容易く折れてしまいそうなほどに細い腕にびっくりする。
「なんで…こんなになるまで…」
そうまでして仕事をする海馬もだが、それに気が付かなかった自分にも腹が立つ。ついでにもう一人の自分にも。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
『もう一人の僕。早く海馬君を保健室に連れて行ってあげて?』
「あ、ああ、サンキュ、相棒」
突然、表に追い出されたもう一人の遊戯は、崩れかかる細い身体を受け止めて、そのままお姫様抱っこよろしく、保健室へと急いでいた。



『だって、約束したんだろ? 今度はちゃんと1日学校に行くって』
誰か迎えを呼ぼうと思って携帯をかければ、モクバから告げられたのはかれこれ1ヶ月以上も前の話で。
仕事と身体とどっちが大事だと言う話から、たまには1日学校に来いとなっていつもの売り言葉に買い言葉になった記憶が蘇る。
『出席日数が足りなくて留年なんてことになったら、天下のKC社長サマも形無しだよな』
『余計な世話だ! このプロジェクトが片付いたら、学校など腐るほど登校してやるわっ!』
『このプロジェクトってなぁ〜、いっつも新作プロジェクトが目白押しじゃないか。いつになったら終わるんだよ?』
『貴様…いいだろう。1ヶ月でケリをつけてやる!』
だからこの1ヶ月、それでなくても少ない睡眠時間を削ってまでムキになってがんばっていたなんて聞かされると ――
「…反則だぜ、海馬」
こういう天然なところは本当に可愛いとさえ思えてしまう。
「ったく、しょうがない我侭お姫様だぜ」



保健室も一応学校だし。
今日はここでゆっくり休みな ―― と。
安作りの硬いベッドでもそこで眠るお姫サマの寝顔は絶品だから。
遊戯はそっと瞼に口付けると、その枕元で眼を閉じた。





Fin.

…もう少しで闇様もベッドにもぐりこむところでした(苦笑)
いや、それはソレで…ごにょごにょ…
保健室でのシチュエーションも、結構萌えだわv
ね、そう思いません? (←って、誰に言ってる!)

2004.06.08.

Atelier Black-White