04.味と香 (ファラオ×セト)


「待ってたぜ、セト」
既に王宮内の殆どの者が寝静まった深夜。
そんな時間に呼び出されたセトは、不遜な態度のまま若きファラオの前に跪いた。
「このような時間にお呼びとは、何の御用でしょうか?」
生憎この場には他に人影もない。
だからいつもなら思いっきり不遜な口調で「何の用だ!」というところなのだが ―― はっきり言って、セトは疲れていた。そう、目が合った瞬間に嫌味の一つでも言ってやりたいほどに。
いつのまにか押し付けられたファラオの補佐役に加えて、大神官としての政務もある。
更にここ数日は、この若きファラオの王位継承一周年祝賀祭という一大イベントもあった。
何せオリエント随一を誇る富裕の国エジプトである。その国の現人神であるファラオの祝賀となれば、そうそう手の抜いたものなど出来るはずもないし ―― そもそもセトが手を抜くはずもない。
そして更に言えば ―― こういった大事を他人任せでいられるセトでもない。
自分自身も神官としての仕事がありながら国賀の席にも配慮を配り、おかげで何の滞りもなく完璧なまでの祝祭とはなったものの、イベント仕掛け人は端から見てもわかるほどの疲労困憊であった。
だから ―― 最終日も終えた今夜は、本当に早く休みたかったのだ。
それを(表向きは)逆らうことの許されない唯一の上司に呼び出された。
夜中も夜中、寧ろ夜明けが近いという時間に。



「ん…いや、ここ数日の祝賀の手配、ご苦労だったな」
「…」 (貴様は王座に踏ん反り返って、連日どんちゃんだったもんな)
「各国の大使も感心していたと聞いてるぜ」
「…」 (当たり前だ、誰がプロデュースしたと思っている!)
「城下の方も特に揉め事もなかったようだし」
「…」 (この俺に抜かりがあるか!)
「随分と忙しかったし…疲れただろう?」
「…」 (判ってるなら、こんな時間に呼び出すな!)
「…で、大役を勤め上げたんだ。オレが労ってやろうかな〜と思って、な♪」
「…なに?」



何を言ってるのだ、このボケは! と思って顔を上げれば、既にファラオは目の前に降りてきていた。
そして有無も言わさず手を取ると、ファラオの私室へと引きずり込む。
「流石に残り物だけど、お前の食えそうなものばっかくすねてきたからなv」
言われてみれば、奥の寝室には所狭しと並べられた食べ物や祝杯の数々。
多くは果物やらあっさりした ―― セト好みのものによって占められていたが、
「な…これは、神殿に献上された神酒だろうがっ!」
道理で目録と合わない物があるはずだと、頭が痛くなる。
「いーだろ? オレも一応、現人神だし♪」
元を正せばファラオへの献上品でもあるのだから、構わないと言えばそうなのかも知れないが…
「貴様…これ以上、俺の仕事を増やすなっ! 大体、貴様は散々飲み食いしていたのだろうがっ!」
そうだ、コイツは仮にも主役だから、連日の宴会中もずっと主役席でのゴージャス三昧だったはず。
勿論、出される料理は一流品、注がれる酒も銘酒ぞろいだったはず。
だが ――
「あんなの…食った気になんかならないぜ」
そう呟くと、ふわりとセトを抱きしめた。



「お前が側にいてくれないと、味なんかしないし」
「…やっ…貴様、どこを触って…」
「あ〜やっぱ、セトの方がずっといい匂いがするよな♪」
「離せ、ユギっ! 俺は…今夜はまだ沐浴も…」
「気にするなよ。あとでオレが洗ってやるから」
「 ―― ///!」



そうして気が付けば、美味しく頂かれてしまうのはいつものことで…
「やっぱりメインディッシュは最後に食わないと、イベントが終わったって感じがしないよな♪」
妙に機嫌のよいファラオとは裏腹に、セトがここ数日の疲れとトドメの一晩のせいで3日程公休を取ったのは言うまでもない。





Fin.

それでなくても一杯一杯なのに、一番は我侭な上司の世話ですか?
お題から、「食事ネタかな?」と想って書き始めたはずなのに、
食べられてしまったのは神官サマでした(苦笑)

ところで、神官業にも公休ってあるのかしら?

2004.06.15.

Silverry moon light