05.闇夜 (ヘンリー×クリス)


何となく寝苦しくて、そっと寝所を抜け出すと、クリスは離宮に奥に作られた庭園に向った。
巧な配置で植え込まれた薔薇の庭園。
その中央には常に水を立てた噴水があるが、流石に夜半もすぎたこの時間ではその動きも止められている。
というか、全てのものが静寂に満ちて ―― 微動だにしない。
「そうか…風もないのだな」
白絹の夜着一枚という軽装であるが、それでも寒ささえ感じないのはいつもなら身に染みる夜風も姿を潜めているから。
そう、この日は新月で ―― 全てのものが闇に沈む夜だから。
恐らく雲で覆われているのだろう。見上げた夜空には星のひとつも瞬いてはなく、世界はどこまでも闇に包まれているようだった。
と、その時、
―― ガサッ
「 ―― !」
不意に聞こえてきたのは草木のしなる音。相変わらず風一つないのにそんな音がするということは、誰かがそこにいるということで ―― 。
だが、そう認識したときには柔らかい芝生の上に押し倒されていた。



「あっ…」
荒々しいまでの口付けに、不覚にも甘い吐息が洩れる。
頭の上で一纏めにされた腕は紐のようなもので縛り上げられ、その結び目は短剣で大地に縫い付けられていた。
肌蹴られた胸元をいいように弄られ、白い肌は既にうっすらと薄桃に染まりつつある。
但し ―― それも重なった肌の触れ合う熱が想像させるだけで、実際にはこの闇では見えることはないのだが。
「くっ…はぁっ…」
「…」
胸の突起を口に含みそっとクリス自身に触れれば、その刺激だけで白い身体はビクンと震え腰をくゆらせてくる。快楽に貪欲な身体の反応に苦笑しつつ、そう仕込んだ別の相手を心で罵りつつも逆らうことのできないじれったさに、クリスは身もだえするしかなかった。
見えない相手の方は、そんなクリスの反応を殊更楽しむように、甘い刺激のみを繰り返し続けている。項や胸、晒された腕の内側へと、その柔らかい肉を好んで啄ばんで所有の印をつける一方でクリス自身へは断続的な刺激で追い立てる。
それでいてその欲望を開放させることだけは許さないから、それは甘い責めとなり ―― クリスの小さな口からはやがて請うような吐息が洩れ始めていた。
「あっ…や…め…」
「…」
「はぁっ…うっ…やっ…やめろっ、ヘンリーっ!」
―― ドクンっ!
不意に呼ばれた己の名に驚いたヘンリーは不意に手を離し、その瞬間、クリスは欲望の全てを放っていた。



「何故 ―― 俺だと判った?」
己の下ではやや荒い息をつくクリスがその白い肢体を晒していて。
だが、闇に包まれたこの夜ではその姿を見ることも出来ないはず。
しかし、
「そういう貴様こそ…俺だと判って襲ったのだろう?」
そう言い返されれば、それもまた事実。
「ああ、そうだな。どんな闇夜でも、お前の姿はいつも俺には見えている」
「ならば同じことだ。この俺が、貴様を見間違えることなどない」
「…そうだったな」
どんな闇の中にあっても、決して輝きを失うことのないセレスト・ブルー。
そして、己の闇をも焼き尽くす、不敵な自信を放つエイヴィル・レッド
唯一の対であり、半身ともいえる存在を見逃すことなどありえない。
それは時の彼方からの約束で ―― 決して違える事など許されないから。
だから ――
「放せ、ヘンリー。このようなことをせずとも、俺は逃げん」
「逃げはしないな、確かにお前なら。だが、逆に返り討ちにされそうだぜ?」
「…貴様がそう簡単に討たれるのか? 面白い、試す価値はありそうだ」
そう見上げてくる不敵な視線は ―― 例え見えなくても心地よくて、
だからあえて拘束していた腕を解き放つと、細い腕は絡みつくようにヘンリーの背に回された。
「まさか…このままで済むと思っているわけではあるまい?」
「…そうだな。こんなんで済ませる気はない」
憎らしいまでに自信に満ちた笑みが見えるわけではなのに。
真直ぐに、反らされることのない蒼い視線が見えるわけではないのに。
どちらからともなく唇を重ねると、その姿は闇に紛れて静かに堕ちていった。





Fin.

これも1回ファイルを抹殺したので書き直したシロモノ。
おかしい…前のはもっとライトだったのに。

ところで、コレ、戦争前の話でしょうか、後なんでしょうか?
書いてる本人にも判らないので、好きに判断してくださいませ。
(↑なんつーいい加減な…・苦笑)

2004.06.28.

rainy fragments