08.遠いあの日に (闇遊戯×海馬)


「はっ…やめっ…」
白いシーツをぎゅっと握り締めて、海馬は綺麗な背中を反らせた。
「くっ…ゆ…ぎ、貴様、いい加減に…っ!」
栗色の髪を一筋、頬に張り付かせて振り向けば、背中から抱きしめてくる遊戯の表情はいつになく真剣だった。
「悪いな、海馬。今日は抑えが効かないぜ」
「 ―― !」
抑えた試しなどあるか!と怒鳴ってやりたいところだが、その瞬間に深く楔を埋め込まれて、逆に声を抑えていなければ、あられもない嬌声が飛び出しそうだ。
だから、必死にシーツをつかむ手の甲で口を押さえようとすれば、当然、そんな仕草は遊戯には見つかることなど容易くて。
細い肩を抱き上げて身体を起こしにかかれば、膝の上に座らされる形になって更に深く穿つ遊戯の熱に翻弄される。
いつもになく性急な行為に抗議しようとするが、その声もどこか艶めいてしまうのは仕方がない。
「 ―― !? 何をっ…はぅっ!」
「声を聞かせろよ、海馬。ここにはオレとお前しかいないだろ?」
「貴様…ふざけた真似を…」
それでもまだ、遊戯を睨んで来る瞳はいつもの蒼で。
身体は快楽に身悶えても、その気丈すぎる魂は決して堕ちることはない。
どんなにその身体を嬲って、汚して、貶めても ―― 3000年の年月を超えても、決して変わらないセレスト・ブルーだから。
「ふざけてなんかない。オレはいつだってお前だけを…」
そう囁きかけ ―― そんな睦言などは信じない腕の中の恋人を思い出し、ただ行動でだけ示すべく思いのたけで貫いた。



「流石に…無理させすぎたな…」
白い肢体を彩る朱の花びらもさることながら、散々に穿った後腔から溢れる己の残滓と混ざる赤い血に顔をしかめる。
目が覚めたら、きっと掠れた声で罵倒が降り注ぐだろうとは判っていても。
貪らずにはいられない唯一無二の存在。
それは、はるか3000年の時を経ても変わらない、絶対的運命。



ただ思うのは ――
もしも、あの時の彼方において、この手を放すことなく共にあることを選んでいたら。
遠いあの日の約束どおり、一緒にいることを選んでいたら。
3000年なんて長い間、離れることはなかったかもしれないという ―― 今更ながらの悔悟の念で。
しかし、
「…貴様、何を恐れている?」
投げ出された身体は流石に動かすこともままならなく、だが、氷の刃の化身のような瞳は、変わることなく健在で。
見上げる瞳だけは全てを射抜くサファイア・ブルーの輝きで、海馬はゆっくりと遊戯を見上げた。
「恐れている? そんなことはないぜ、海馬」
そう言い放つ遊戯は ―― 極力いつもとかわらないふてぶてしさを取り戻しつつあって、
「フン、またもやお仲間たちと非ィ現実なお遊びをしてきたらしいな」
バクラに仕掛けられた闇のRPGの話は、器の遊戯のほうから粗方の話は聞いていた。
尤も、そんな過ぎ去った過去のことなど、目もくれるはずのない海馬だから。
「…酷い言われようだな。一応、命がけのデュエルだったんだぜ?」
「デュエルはいつも命がけだ。貴様は違うのか?」
「…そうだったな。ああ、そうだ」
そう、いつも全てに命がけの海馬にとって、過去とは過ぎ去った現象の一つにすぎなくて。
だから、後悔など認めることすらない生き方だから。
だから ――
「ずっと…一緒にいような、瀬人。絶対離さないぜ」
「…フン、そんな先のことは知らん…」
そういってプイッと顔を背けた頬が、心持ち赤くなっていたような気がするのは遊戯の見間違えではなかったようだった。





Fin.

時間的には…美術館の石版裏で闇のゲームをしてきた後です。
そう、バクラとセト争奪戦をした後…(笑)
神官サマに後を押し付けて昇天してしまった王様。
ゲームの最中は口説けなかったのが、かなりにご不満だったとお見受けします。

2004.07.16.

Atelier Black-White