10.どうしよう!! (ファラオ×セト)


「ヤバイ…マジでどうしよう…」
本日何度目になるかわからないため息をつきながら、ユギはがっくりと豪奢なベッドに倒れこんだ。



事の発端はその日の午前中に行われた謁見の席でのこと。
「本日はなんと言われましても王子にもご出席いただきますぞ!」
と、何故か今日に限って妙にリキの入ったシモンにつかまったのが運のツキ。あれよあれよと言ううちに謁見の間につれてこられて父王の横に立たされてしまった。
「いずれはお前がこの国を統べることとなる。きちんと政務の如何を見届けて置くように」
と言われるのは正論ではあるが ―― 正直に言って鬱陶しいことはこの上ない。
だからと言って「王位なんか継がない!」などという我侭が許されるわけがないことも十分すぎることに判っている。
別に力で押さえつけるつもりはないが、ユギのもつ力 ―― それは身分もそうだし、実際の能力も ―― は絶大であるから、誰もが一線を画すようにしか接してはくれない。
唯一心を許せるものと言えば、幼馴染ともいえるマハードやマナくらいだが、彼らも最近は「王子」と「従者」を意識しつつあるから ―― 。



そんな中、ユギは絶対の蒼に出会ったのだった。



そろそろ午前の謁見も終わろうかという頃になって、恭しく奏上したのはシモンだった。
「実は…ファラオ。本日は新しく六神官の一員となりますものを控えさせております。よろしければこの場にて一度お目通しをさせたいと思いますが…いかがでしょうか?」
そんなことを言い出したシモンに、既に短調な政務には飽き飽きしていたユギは全く興味もないようだったが、流石に父である現ファラオはそうでもなく、
「おお、新しき六神官の一人か。良い、連れてまいれ」
そう言ってお目通りを許すと、またもや政務の時間が延びたと、ユギはあからさまに溜息をついた。
六神官は国の礎を守る重要な役職であるのは確か。だがそれだけにその地位につけるものは並大抵のものではなく、当然のように才に長け知略が豊富で優秀な人材となる。そのためどうしてもその対象となるのはユギよりも遥かに年上の者が殆どであり、ユギとしては煩い大人が増えるだけとしか思えない。
それも現在のエジプトが平安であるからゆえの贅沢なのではあるが。
だが、
「このたび、千年錫杖の新しき主となりました神官セトでございます。両親を早くに亡くしましたが、あらゆる登用試験を全て主席で合格した、正に10年に一人とも言えます稀に見る逸材にございます」
そうシモンに言われてひれ伏した者は、確かにユギよりは年上であってもそう違いがなさそうで、
「面を上げよ、セト」
「はっ…」
父王の名を受けてその顔を上げた瞬間、ユギは息を呑んで釘付けになっていた。
全体的には細身でありながら、なよなよとした弱さなど微塵も見せないしなやかな肢体に洗練された仕草。
どんな名工でもその全てをレリーフに書き留めることなどできないような美貌に ―― なんと言っても圧巻は、空よりもナイルよりも深い蒼の瞳。
「恐れながら。千年錫状の主となり、これまで以上に王国に繁栄に心血を注ぐ所存です」
「頼むぞ、セト。いずれお前は、我が息子の右腕となろう」
父王がそう云えば、セトはチラリとユギを見上げた。
その一瞬 ―― ユギとセトの視線がぶつかるが、それをふわりとそらすと、
「ありがたきお言葉…」
そう言って、吸い込まれそうな蒼の瞳を伏せてしまった。



「ヤバイな。マジで…欲しいぜ」
最年少で六神官の地位に上り詰め、この日が初の登庁だというのに物怖じした素振りは微塵もなく。いついかなるときも真正面からぶつかり撃破することを潔しとするような強さを秘めて。
そんなセトの姿に一目で心を奪われたユギは悶々とする思いに身を焦がしていた。
こんなに欲しいと思ったことは初めてだったし、そもそも他人に興味を覚えたことなんて全くなかったから。
だが ――
「あーもう! 悩むなんてオレらしくないな」
どうしようなんて悩む暇があったら、実行あるのみ!
「欲しいものは手に入れる。絶対、な♪」
そう決意すれば行動を起こすことにためらいなどあるはずもなく、ユギは自室を飛び出すと、セトがいるはずの神殿へと向っていった。





Fin.

アニメ版206話の補完編です。
本来、浅葱的には白セトを推奨なのですが、ここではあえて肌の色には触れませんでした。
…ので、どちらでも妄想してください。(笑)

この後、神官セト様の受難が始まるわけですね。(苦笑)

2004.08.04.

Silverry moon light