11.Honey Moon (ヘンリー×クリス)


コレでもかと思えるほど、頭も身体も気分爽快な清々しい朝を迎えて、ヘンリーは腕の中で眠るクリスの頬にそっと口付けた。
「ん…」
どうやらちょっとくすぐったかったのか、身動ぎする仕草があどけなくて ―― それは目を覚ましているときの姿からは想像しにくいほどの幼さで。
「まだ寝てろよ。俺が抱いててやるからさ」
そう耳元に囁けばその声が聞えたのか、クリスは少し嬉しそうに微笑んでヘンリーの腕の中に身体を預けていた。



長かった内乱が終結して、漸く手に入れたと思ったのも束の間にまたこの手から離れて。クリスがヘンリーの元に戻ってきたのはつい先月のこと。
それでも国王となった以上は色々とやらなくてはならない事が山積みであるから、手を伸ばせばそこにいるというのに伸ばす事すら出来なくて。
緊急の政務だけ片付けて、近年まれに見る盛大な婚儀を行ったのは昨日のこと。勿論、国賓などは未だに残っているからその接待などはしなくてはならないだろうが、とにもかくにも新婚である。
少なくとも今日一日くらいはゆっくりさせてくれるだろうと思うのだが ――
(尤も、邪魔するヤツは罰ゲームだぜ!)
そう決意も新に腕の中の宝玉を見れば、その姿は余りにも愛おしくて。
まるで雪の華のように白い肌には、昨夜己が刻んだ朱の刻印がちりばめられて。
長いまつげに整った鼻梁。
小さめの唇からはかすかな寝息が零れている。
まさに聖なる淑女のような清らかさだが、この身体が昨夜はヘンリーの与える快楽に溺れて、強請って貪欲に乱れていたのは間違いない。
「ホント、罪作りなやつだよな」
夜の闇の中では、涙を流して許しを請い、更なる楔を欲しがって身悶えていたのも事実。
そして朝の光の中では、そんな姿も想像できないような清純さを身にまとって眠りについて。
これで目を覚ませば ―― いつもの高邁無敵なお姫サマに早代わりするのだから、冗談抜きに目が離せない。
とはいえ、流石に昨夜は無理をさせたようで。
閉じられた目尻にはうっすらと涙のあとが残っている。
「ごめんな、クリス。ちょっと無茶したか?」
1ヶ月前まではアングルシーの離宮で静養していた身である。
それを我慢が出来ずロンドンに拉致してきたのはヘンリーで、この1ヶ月という間は婚儀に向けての準備に忙しかったのも事実だ。
何せ男の王妃サマで、しかもつい先日までは敵対していた旧国王軍の総司令官だ。周りの重臣たちの反対も多く、中には密かに葬る事さえも考えていたものもあったほど。
まぁそれについては、敵対するものがいる方が元気(?)になるというクリスの気性のお陰で事なきで済んだが、それでも身の休まることは少なかったはず。
(ついでに俺も我慢できなかったしな)
と、これに関しては苦笑しか出来ないが ―― それほどまでに欲しかった唯一の存在だから。



「ヘンリー、ちょっといいか?」
躊躇いがちなノックとともにやってきたのは、現在は片腕とも言える腹心であるジョーノで。
「悪いな、ちょっと…」
そう言って部屋の中央にある豪奢なベッドを見れば、半分開けられた天幕の向こうでは、ヘンリーが愛しそうにクリスの髪を弄っていて。
「…何の用かな、ジョーノ君?」
そう応えるヘンリーの背後には、間違いなく禍禍しい暗雲が立ち込めている。
(ヒェ〜、こ、恐いっ!)
邪魔するヤツは罰ゲームだぜ☆とその眼が語っているのは間違いない。
しかし、
「あ、あのな、国賓の返礼の件でじーさんが相談したいって…」
と言う矢先からヘンリーの顔色が変わるのは間違いない。
「まさかジョーノ君、そんなことで邪魔しに来たわけじゃないよな?」
「…」
だからじーさんが行けと言ったのに、「年寄りには刺激が強すぎるわぃ、ホッホッホ…」などと言われて押し付けられたのが事実で、絶対に自分から邪魔しに来ようだなんて思っていた訳ではなくて。
だが、
「それならば…王宮書庫の第三書庫室に3年前の文献があったはずだ。確か、入って右の棚の…上から三段目に…」
「クリス?」
「それを参考にすればおおよその事は貴様らで決められよう? リストアップができてからコイツの裁可を取れ」
そう言い放つ声は流石に掠れて痛々しいが、それでも見据える蒼穹はいつもの輝きで。
「そ、そうだな。邪魔したなっ!」
と応えるなり、ジョーノは早々に退散していた。



それまでのあどけない仕草は胡散して、鬱陶しそうにヘンリーの腕を払いのけると、クリスはゆっくりと身体を起こした。
久しぶりの行為だった上に、今朝方まで散々に抱かれた身体はとんでもない場所に痛みと、そして気だるさを残しているが。
「いつまで俺を抱いている? 貴様も国王なら政務に戻れ」
「何言ってるんだよ? やっと式も挙げたラブラブの新婚だゼ。折角のHoney Moonなんだから1ヶ月はイチャイチャと…」
「な…恥ずかしい事を言うなっ!」
一瞬にして真っ赤に染まるのは、頬だけではない。
「愛してるぜ、クリス」
「馬鹿者っ!…///」
そうやって押し倒されて、結局、甘々な蜜月を過ごす二人だった。





Fin.

最初っからクリス狙いで戦争を仕掛けたヘンリーさんだけあって、
ウチのサイトでは1番ラブイチャ度が高いCPです。
クリスも、満更でもないみたいだし。

2004.08.17.

rainy fragments