12.奇想天外 (闇遊戯×海馬)


透き通るような白い肌に栗色の髪。
整った鼻梁に、不敵な笑みを浮かべる唇は艶めく真紅で。
そして何よりも特徴的なのは ―― その蒼穹にも匹敵する気の強い瞳。
何者にも怯まず前進して打ち砕く気性の激しさは天下一品で、それに裏づけされる頭脳の優秀さに大胆な行動力。
まさに全知全能な神は二物も三物も与えたという見本のような至上の存在。
何度生まれ変わっても見間違えるはずなどない、孤高の魂。
だから、一目見ただけで思い出す。
どんなに離れていても、この魂は自分のものだから。
たとえ3000年の時の彼方を経ても、絶対に忘れない自分だけの存在。
『ずっと、一緒にいような、セト♪』
その誓いだけは ―― 自分のことを忘れても、それだけは覚えている ―― 。



製品化寸前でバクが検出された試作品の修正のため、海馬が自宅に戻ったのは、既に明け方に近かった。
幸い明日 ―― というか、既に今日だが ―― は仕事の予定は入っていないから、ゆっくり眠られると思ったのだが…
「よ、遅かったな♪」
当然というように自分のベッドに寝そべっている遊戯を見た瞬間、海馬の中でブチッと音がした。
「何故貴様がここにいる?」
「そりゃあ決まってるだろ? お前がいるから♪」
「そうか、ならば死ね」
―― ドギューン、ドギューン、ドギューン…!
いきなり内ポケットから銃を取り出すと、何の躊躇いもなく引き金を引く。
「うわっ、ちょ、ちょっと待て、海馬! いきなり銃はないだろうっ!」
「煩いっ! 何時だと思っている、たかが銃で騒ぐな! モクバが起きたらどうする気だっ!」
…いやその前に銃声で起きるだろうが? という突っ込みは受け付けないらしい。
しかも既に全弾撃ち込んで ―― それを避けきった遊戯も普通ではないと思うが、まぁそれはそれとして。
「貴様、避けるなっ!」
「避けなきゃ痛いだろうがっ!」
「知るか、そんなこと。ええいっ、鬱陶しい、さっさと消えろっ!」
「…酷い言われ方だな。オレはお前が疲れて帰ってくるだろうから、オレの愛で癒して…」
「お、おぞましいことを言うなーっ!」
叫んだ途端に青眼を召還して、問答無用のバーストストリームが炸裂する。



例えば ――
唯一己に勝った者を抹殺するために、巨額を投じてDEATH-Tという名のゲームランドをわざわざ作ってみたり。
三幻神のカードを手に入れるために、バトルシティと称した町全体を巻き込んだデュエル大会を開催してみたり。
挙句にはその最終決戦地を、もはや必要なしと爆破してみたり。
そしてそして、その脱出の際にも、飛行船のようなトロい乗り物など鬱陶しいわっ!と戦闘機でアメリカに行ってしまったり。
しかもその戦闘機が、愛する青眼を模しているなどと…普通の人間では思ってもできないことで。
でもそんな奇想天外なことも全く気にせずやってのけるから ―― 目が離せない。



朝になって目を覚ましたモクバが自室の窓を開けると、そこにはボロ雑巾のようになった赤と黒の物体が落ちていた。
「あれ? 遊戯、来てたのかよ?」
「お、おう、モクバ、おはよう…」
何とか格好付けて起き上がろうとしているようだが、流石に青眼の直撃はキツイらしい。
(…ってことは、兄サマ仕事が片付いたんだな)
遊戯のことなどそもそもどうでもいいモクバにとって、それより大事なのはワーカーホリックな兄サマだから。すかさず内線を取ると、
「屋敷内のセキュリティをレベルSに設定しろ。兄サマが休んでるから、邪魔するヤツは即行で排除だ」
「おい、モクバ…」
「特にオレの部屋の外に侵入者がいる。迎撃班は即刻出動して、排除だぜぃ!」
とまで言われては ―― オチオチ延びている場合ではない。
「冗談じゃないぜ! ここまで来て、何にもしないで帰れるかっ!」



そうして今日も賑やかな海馬邸を、新聞配達で通りかかった某勤労高校生が呟いた。
「…やっぱ、モト王様とか、金持ちの考えるコトはわかんねぇな」





Fin.

この場合…一番「奇想天外」なのは誰でしょう?
1.社長、2.闇遊戯、3.モクバ
…っていうか、遊戯王のキャラってみんなそれぞれ奇想天外ですよね。

2004.08.24.

Atelier Black-White