13.KNIGHT (ヘンリー×クリス)


「ジョーノ君に騎士の称号を授けようと思う。異存のあるものは?」
そんなことをヘンリーが言い出したのはとある御前会議でのことで。
流石に突然ではあったが、「神をも使役する」国王の言うことは不可侵に等しいから。当然誰も異議など唱えず、あれよあれよと決まってしまった。



「別に良いのではないか? 王宮に仕えるのであれば、それなりに肩書きは必要だろう」
まるで興味もないと言い放ったクリスは、手にしていた古書を元の棚に戻した。
「王宮とはそういうところだ。今後、戦が起きなければ軍人など無用の長物であるしな。貰えるうちに肩書きでも階級でも手にいれておけ」
「だってよ、俺が王宮勤めなんて、ガラじゃねぇじゃん」
「フン…それは言えているな。だが、国王がアレなのだから問題はなかろう」
「おいおい、仮にも王サマに…」
誰か聴いているものがいれば、即刻不敬罪で首が飛んでもおかしくない物の言い様。だが、クリスがそれを言うといっそ清々しいまでに聞こえるのは ―― 意味は違うが「人徳」なのか?
尤も、既に国王であるヘンリーとの挙式も決定となって久しいため、その傍若無人ぶりも周囲には物慣れたものだ。
黙って立っていれば、欧州随一の美貌の王妃。
但し一度口を開けば ―― 気性の激しさが氷の刃となって相手を叩きのめす。
実はつい先日もある国の大使を迎えて外交上の折衝があったのだが、その歩く百科事典なみの博識をもって相手の不備をつついた挙句、英国有利な条件での調印にこぎつけたのはクリスならではの手腕の結果。
おかげで「男の王妃などと」と陰口を叩くしかない無能な重臣達も、更に立場をなくして反撃の余地すらないらしい。



そもそもジョーノは剣豪では知られていても、その前身は単なる傭兵で。
国王であるヘンリーと出会ったのも、市井でのこと。
そのままヘンリーの人となりが気に入ったから薔薇戦争に協力したものの、元から王宮勤めなど考えていなかったのは事実だ。
生まれながらの貴族にしてみれば、騎士の称号などたいしたものではないのだろうが、全くの無位無官の身からすればそれは絶大な効力を得るもの。
なにせ、国王直属の騎士ともなれば、戦がなくても生活が保障され ―― 傭兵のように戦乱を求めて腕を売る必要もないわけだ。だから、
「大体、戦わなくても給料をもらえるって…なんか申し訳ないような気がするしよ」
ついそう呟いてしまうのも仕方のないところなのだが、
「…貴様というヤツは、ほとほと貧乏性だな」
クリスの方は、けんもほろろな言い様だ。
「地位を得るということは、正当な評価をされているということだ。ならばそれに見合う代価を得るのは当然のこと。あまり遠慮ばかりしていれば、所詮その程度と自ら世間に公表しているようなものだぞ」
「うっ…ソーナンデスカ?」
更に言えば、ジョーノが騎士となれば、平民でも能力さえあれば一代限りとはいえ貴族に匹敵する地位を得ることができるということである。元々ヘンリーは国民の人気を掌握しているが、更にそれを増すことは間違いない。
「貰って置け。あの馬鹿国王にしてみれば稀に見る計らいだ。ここで恩を売っておくのは悪くない」
そう何事でもないようにクリスが言い放つと ――
「…だれが『馬鹿国王』だって?」
図書室の入り口に、腕を組んで立っているのは ―― ヘンリーその人だった。



「姿が見えないと思ったら…こんなところで何してるんだ?」
そう言って、まるでとうせんぼのようにドアを塞ぐヘンリーの背後に、何となく闇の気配を感じるのは気のせいではないようで。
「見て判らんか? 本を読んでいる」
クリスも負けず劣らず強気の発言だ。
しかし、
「ジョーノ君、騎士の称号の次は近衛連隊長就任だからな。来週には授与式だぜ」
「連隊長? おいおい、ヘンリー、そこまで俺に押し付ける気かよ…」
「騎士の称号に近衛連隊長。これからは益々大忙しだな♪」
「マジっすか…?」
ニッコリと微笑んでいるようで、実は何となく機嫌が悪いヘンリーに、あまり人の顔色を伺うことは得意でもないジョーノも気が付いている。
当然、クリスなら尚のこと。
「…で、今度は何を企んでいる?」
そう言って氷の瞳を向ければ、ヘンリーはふっと溜息をついた。
「騎士になっても、どこぞの恋愛小説みたいに、王妃との不倫なんて許さないぜ☆」
ドンと言い放つ爆弾宣言に、とんでもない誤解を受けた二人は ――
「ば、馬鹿か貴様っ! この俺がこんな犬と不倫だとっ!」
「冗談じゃないぜ、ヘンリー! こいつとじゃあ命が幾らあっても足らねぇよ!」



最近の王様の愛読書は、「円卓の騎士」。
丁度、騎士ランスロットと王妃グィネビアの不倫のシーンさしかかったらしい。





Fin.

スミマセン、「KNIGHT」といわれて思いついたのが
「円卓の騎士」でした。(もしくは「リボンの騎士」?)
やまにはヤキモチヤキの王サマもいいかなぁ〜と…

2004.09.01.

rainy fragments