15.砦 (ヘンリー×クリス)


ずっと欲しかったのは、唯一無二ともいえる忠実なしもべ。
いや、それは主従の関係を超えた「絶対の対」で、魂の半身と言ってもいいほどの存在。
だからそれを手に入れるためなら、どんなことでもやって見せると誓ったのが10歳のとき。
そのために死ぬ思いであらゆる魔術や錬金術の知識を身に付け、古今東西の言葉を覚え書物を漁り ―― この身体でさえも利用することに躊躇いはなかった。
所詮身体など、単なる道具に過ぎなかった。
目的のためなら手段は選ばない ―― そうでなければ、貴族と平民と言う理不尽な階級社会の中で昇り詰めることなどできはしないから。
それが、「正しい」とは思わなくても、「間違っている」とも思えなくて。
汚れた身体は洗えば落ちる ―― そう思って、権力に屈して足を開いた。
媚びへつらって、娼婦のように微笑んで。
自分でも反吐を吐きそうな媚態を見せて、乱れて見せて。
それが平気だったのは ―― この心を永久凍土の砦が守っていてくれたからだと気がついた。
あの日 ―― あの燃えるような赤に出遭ってしまったから。



「ひっ…やぁっ…!」
突然、深く楔を埋め込まれて、まどろんでいたクリスは咄嗟に悲鳴を上げた。
「な…にを…ヘンリー、貴様…」
「それはこっちの台詞だぜ?」
見上げれば赤く燃えるような瞳が冷たく見下ろしており、クリスは未だ身体を揺さぶられつつあることに気が付く。
「随分と余裕だな、クリス。俺に抱かれながら、何を考えていた?」
「な…んのこと…だ?」
「とぼけるなよ」
身体を繋げたまま抱き起こされて、ヘンリーの楔が更に深くクリスの中に埋め込まれる。
「ああっ!」
「言えよ、何を考えていた?」
耳に甘く囁きかけて項を吸い上げ、深く抉るように突き立てれば、クリスは白い背中を弓なりに反らして涙を流した。
「な…にも、考えてなど…」
「嘘だな。俺に抱かれながら、他の男のことでも考えていたか? そう、例えば ―― あの死んだ男のこととか」
「 ―― っ!」
直接名前を出されたわけではなくても、あの男のことはクリスの心に深い傷になっているのは間違いない。
『薔薇十字軍』の総帥になるため。
そして ―― 『青眼の白竜』を手に入れるため。
そのためにこの身体を武器に取り入ったのは紛れもない事実だ。
そのことを今更どうこう言うつもりは全くない。
それは決して強制されたわけではなく、己自身が選んだ手段だったから。
それを悔いると言うことは、その時の自分を否定すると言うことになるから。
だが ―― この男から言われるときだけ、どうしても心が悲鳴を上げる。
それはまるで心の砦を無残に打ち砕かれるようで。
築き上げた全てを奪われ、晒されてしまうようで ―― 。



「…無理させた…な」
今度こそ本当に気を失って、ぐったりとその身を晒すクリスを腕に抱いて、ヘンリーはそっとその頬に口付けた。
誰よりも強い心の砦を持っていながら、その心は時に信じられないくらい不安定になる。
不安になる必要などないというのに。
いつでも自分は側にいるし、あらゆるものから守ってやると誓っているから。



決して誰も入れようとはしないその心の砦を、いつか守ってやりたいと思うから。





Fin.

「砦」といったら…「砦を守る翼竜」。
最近、DM8(GBA)にはまっている浅葱です。

クリスさんは一度不安定になると一人で落ち込みそう。
でもって、それには聡いヘンリーさんですか?
…そんなときくらいしか強気になれないようじゃ…(苦笑)

2004.09.29.

rainy fragments