18.ケンカ (闇遊戯×海馬)


「ホント、海馬君といい城之内君といい…あの二人も飽きないよね」
夕べはちょっと夜更かししたせいで、明け方になって身体を交換すると同時に相棒の心の奥で寝込んでいたら、そんなしみじみとした声が聞こえてきて俺は意識を浮上させた。
「たまに顔を合わせたときくらい、仲良くすればいいのに」
「それも想像つかないね。海馬君は海馬君だし…」
「城之内にそんな気は更々ねぇだろうし」
どうやらここは学校 ―― 童実野高校の教室で、相棒が話しているのは本田君や御伽たちのようだ。
適度に賑やかでざわつきつつ、決して不快に思えないのは、ここが平和そのものだから。
但し ――
「あーったく、あったまに来た! 表に出ろ、海馬!」
「フン、貴様ごとき凡骨と付き合うほど暇ではないわ。出たければ一人で行け」
丁度今は休み時間とかいうやつらしく、席についている者と廊下に出たり友達同士でしゃべってたりする者とが半々くらいだけど、その中でも異彩を放っているのは最後列の特等席。
『海馬…?』
流石に校内では他の生徒と同じブルーの制服着ているが、どう見たって皆と同じに見えないところが海馬瀬人だ。まるでモノクロ映画のワンシーンに、そこだけ原色のカラーを入れたような目立ちよう。机の上にノートパソコンを広げてキーボードを叩いていれば、教室というよりはどこかのオフィスかオープンカフェとしか思えない。
(あれ、もう一人の僕、起きたの?)
そんな姿に見入っていたら、流石に二心同体の相棒は俺が目覚めたことに気がついたらしい。
『あ、ああ、相棒。海馬が来てるのか?』
(うん。今日は1時間目から来てるよ)
高校生なら学校に来るのは当然のこと。だが、メインは世界に名だたるアミューズメント会社の社長という海馬瀬人が、1時間目から学校に来て授業を受けるなんていうことは本当に珍しい。
尤も、そろそろタイムリミットらしく、机の上に広げていたノートパソコンを終了させ、帰り支度をしているようだが。
『…で、城之内君は何を怒ってるんだ?』
(あはは…いつものことだよ。えっと、確か最初は『久しぶりだな』から始まったんだけど…気がついたら言い合いになってたね)
どうも犬猿の仲というべきか、海馬と城之内と顔を合わせればケンカになっている。尤も、ケンカといっても口で言い争うだけのことなんだが ―― 何せ相手はあの海馬瀬人。口で勝てるやつなどこの世に存在するかどうかも疑わしい。
「城之内君もケンカになるのが判ってるんだから、声なんかかけなきゃいいのにね」
「黙って見過ごすなんて、ヤツの性格じゃ無理だからな」
「それで思い切り言い負かされてるんだから…懲りないわよね」
いつの間にか杏子や獏良も入ってきて…仲間内からしてみればそれは日常茶飯事のことだからなんとも思わないところだ ―― こっちに被害さえ及ばなければ。
だが、
「でも…ケンカするほど仲が良いって言う諺もあるよね。結構あの二人、お似合いなんじゃないの?」
―― ピキーィン!
獏良 ―― 勿論、宿主の方 ―― の何気ない(と思いたい)一言に、その場は一瞬にして凍りついた。



「…で、貴様、まさか昨日の今日でまた不埒なことを考えているのではないだろうなっ!」
疲労困憊で自宅に帰ってきた俺の目の前には、何故か機嫌の悪そうな遊戯 ―― 勿論、性悪セクハラ王の方 ―― が立っていた。
「不埒なこと? ああ、昨夜、犯りまくったことか? お前だって喜んでたじゃないか」
「喜んでなどおらんわっ!!!」
一瞬にしてカッと血が昇る。だがそれでなくても睡眠不足に体力消耗、精神的にも疲労の極地にいる俺は、不覚にも貧血を起こしかけてふらっと身体をぐらつかせてしまった。
「おっと、危ないな。支えててやろうか?」
「余計な…世話だっ!」
パシッと差し出された手を払いのければ、流石に遊戯もムッとした表情で睨んでくる。
「なんだよ、心配してんのに…」
「心配などいらん。貴様になら尚更だ」
「俺には? じゃあ、城之内君ならいいのかよ?」
はぁ? 何を言っておるんだ、コイツわ。何故ここであの凡骨の名前が…?
大体、誰のせいで具合が悪いと思っておるんだ。この馬鹿が、昨夜俺を寝かせなかったのがそもそもの原因だろうが!
ここ数ヶ月、懸案となっていた新型デュエルシステムのICチップが漸く完成して、昨日は確かに気が緩んでいた。流石に連日の徹夜で身体は悲鳴を上げる手前だったが、それを言えばモクバが心配する。だから大丈夫だという意味も込めて、明日は学校に行く等と言ったのが間違いだった。
『仕事にケリが付いたんだってな。モクバに聞いたぜ』
そう言って幾重にも張り巡らせてあるはずのセキュリティを難なく突破し、夜這いに来たのが目の前にいる遊戯で。
『久しぶりにデュエルでもしようぜ』
そう言って ―― 気が付けばいつもの己をアンティにしたデュエルになって。
このセクハラ大魔王は、この海馬瀬人が生涯のライバルと認めたほどのものだから。
結果は…その…///。
だが、一晩中なんて俺は言った覚えはないぞ!
『しょうがないだろ? お前があんまりいい声で啼くからさ♪』
「 ―― っ! ○△□っ!!!」
思い出すだけでも腹が立つ。
だが、当の本人はそんなことにも気が付いていないようだ。
それどころか、
「折角学校に来たのに、お前ってばってオレには何も話しかけてくれなかっただろ?」
明け方まで散々人の身体を好きにしていたくせに、これ以上何の話があるというのだ?
「そもそも学校に来るなんて聞いてなかったし」
わざわざ貴様に話す必要などないわ。
「その上、城之内君とはあんなに仲良さそうに話してたのに…な」
ちょっと待て…あれのどこが「仲良く」なんだ? 
「城之内君とは話せても、オレとは話せないって言うのかよ?」
「貴様は、心の奥とかに引っ込んで、寝てただろうがっ!」
俺が知らないとでも思ったのか! こっちはモクバに登校するといった手前、今更休むわけにも行かず、腰は痛いわ喉は痛いわというのに鞭打って登校したというのに!
この諸悪の根源は、身体を表の遊戯にさっさと返して、自分はのうのうと居眠りをこいてたんだぞ!
お陰で、学校に行ってそれに気が付いた瞬間、銃を持ってこなかったのをどれだけ後悔したことか! その上、身体が痛いから大人しくしておれば、あの凡骨駄犬がうるさく構ってくるし!
「え、だって、皆が『ケンカをするほど仲が良い』言ってたぜ?」
「それで…そうか、よく判った」
またへんな知識を植えつけられたとうことか。ふふふ…よぉ〜く判ったわ…
「…ならば、貴様も粉砕してくれるわっ! 出でよ、青眼×3! 遊戯にダイレクトアタックだ! 滅びのバーストストリーム!!!」
嬉々として出現する青眼に、当然否やはない。
「え? あ…おい、ちょっと待っ…」
―― ドッカーンっ!!!!
轟音と共に閃光が走り、遊戯の小さな身体がテラスを突き破って外に放り投げだされていった。



「あれ? 遊戯、今日も来たみたいだぜぃ」
丁度その頃、一足遅く小学校から帰宅したモクバは、迎えに来ていた磯野とともに、兄の部屋から溢れる光の刃と、その刃に貫かれた小さな身体が彼方へ飛んでいくのを見送っていた。
「武藤遊戯…大丈夫でしょうか?」
あれは青眼のバーストストリーム。当然、命じたのはこの屋敷の現在当主であることは間違いない。
だから
「大丈夫だろ? それより、兄サマ…今日は具合が悪そうな感じだったけど、学校に行ったら元気になったみたいだな」
「そうですね。しかし…ケンカをするほど仲が良いといいますが、まるで社長と武藤遊戯のようですね」
「…それ、兄サマの前では言わないほうがいいぜぃ」





Fin.

「ケンカをするほど仲がいい」…なぁ〜んて言ってたら、シャチョと仲良しさんは山のようにいる気がする。
っていうか、シャチョとケンカをしたことがない人って「遊戯王」の中にいたかしら?

2004.10.30.

Atelier Black-White