19.更紗 (ファラオ×セト)


―― パシャーン…
辺りを憚るような水音が響く、大神殿の最奥にある禊の間。
天上から幾重にも垂れ落とされた天幕を掻き分ければ、漸く目的地に到達して。
本来は神聖な場であるはずのその場所を目に前にして、ユギは迷うことなく飛び込んだ。
「セトーっ!」
「キシャーッ!」
漸く晴れた天幕の向こうに目指すヒトの姿を見つけたと思えば、突然現れた精霊獣に立ちふさがれた挙句、光の奔流が向けられる。
「うわっ! ちょっと待ったっ…出でよ、オベリスク!」
すぐさま三幻神の一つ、オベリスクの巨神兵を呼び出すが、流石にダメージを全て塞ぎきるのは不可能で。だがユギは反撃はせず、苦笑を浮かべて水際に座り込んだ。
「ったく、主に似てキョーボーなしもべだな。問答ナシかよ」
「フン、己の身も守れぬようでは長生きはできぬわ」
応えるのは ―― 全く何事もなかったかのような涼しい声で。
相手は仮にもこのエジプトのファラオで、いわば現人神ともいえる高貴な存在。そのファラオに向かってしもべの攻撃を命令したわけではないが、止めもしなかったのは事実である。本来なら即刻反逆罪で捕らえられても文句の言えないところであるが、
「大体、貴様…この時間は謁見のはずだろう? 何故こんなところにいる?」
と、寧ろユギのほうを断罪してかかってくる。
「お前に逢いたくなったからサボってきた。早く出て来いよ」
「貴様に命令される筋合いはない」
「俺、一応ファラオなんだけどな」
「それがどうした? ここは神殿だ。王宮の道理など通用せぬわ」
それも違うと言いたいところだが ―― 何せ相手はセトだから。
尤も、このままでは埒が明かないのも事実。
仕方がなくゆっくりと岸辺に向かって歩き出せば、忠実なしもべがふわりとセトの肩に新しい服をかけた。
と、その瞬間、
「あーっ! それだな! すぐに脱げ、セト!」
「…何を言っておるのだ、貴様?」
何気に見ればそれは青を基調とした綿の織物で、そういえば先日、どこぞの大使が土産にと持ってきた品だったと思いだす。
「俺以外の男からの服を着るなんて…絶対、許さないぜっ!」
「フン、馬鹿馬鹿しい。またアイシス辺りに何か言われてきたな」
「俺が贈った服には手も通さないくせにっ!」
「貴様が持ってくるのは、いつも女物だからだろうがっ!」
ついでに言えば ―― ユギの場合は脱がせる下心も見え見えである。
それに引き換えこちらは、随分と手の込んだ更紗 ―― 青を基調として異国の竜らしい動物が鮮やかな色彩で捺染されている綿布である。
勿論贈り主が誰だったかなどは、既に忘却の彼方の置いてきているが、
「それ…あのペガサスが持ってきたヤツだって聞いたぞ」
と聴いた瞬間、捨てようかとよぎったのは間違いない。
ペガサスといえば、手先は器用で絵画の才能があると名高い、隣国の大使。
ついでに言えば、こちらも実はセトに対して下心を持っているのは明らかであるのだが ――
「…ま、コレには罪はないわ」
と、ドラゴン族を溺愛しているセトにとっては、とりあえずはどうでもいいらしい。



「じゃあ、俺も青眼をデザインした衣装を持ってくれば着るんだな!」
「…貴様の下手な絵など見たくもないわ」





Fin.

古代編では…ペガは隣国(バビロニアあたり?)の外交大使です。
そのうち謀反をおこして王様になるかも?
一応、DMの創始者というTVの設定を生かして、お絵かきは得意らしいですよ。(苦笑)

2004.11.27.

Silverry moon light