21.浮気現場 (闇遊戯×海馬)


「兄サマ、遊戯が来てるぜぃ」
海馬ランドの正門前にリムジンで乗りつけた兄サマに、先にここに来ていたオレは楽しそうにそう告げた。
「遊戯が?」
「うん。デュエルリングを貸してくれって来たんだけど…まぁ、アイツには色々と世話になってるから、オレの特権で順番を繰り上げてやったけど…いいよね?」
この日の兄サマの目的は、現在海馬ランドの一番の人気コーナーである「デュエルリング」の定例チェックだ。
キングダムでもペガサスが宣伝してくれたのだが、「デュエルリング」は自分の構築したデッキを持ち込むことが可能な上に、そのモンスターをまるで実在していると思わせるほどのリアルさで召還してバトルができる。となれば、それはオレのような子供でなくても堪らないものだ。
おかげで既に予約は殺到し、それこそ3ヶ月先まで埋まっているというのが現状であったのだが、
「丁度、メンテ用に空けておいた時間だったし…問題ないよね?」
「ああ、昨夜や今朝のチェックでも問題はなかったのだろう?」
「勿論だぜぃ」
何せ一番の人気コーナーだ。当然不具合が少しでも起ころうものなら、ライバル会社の連中が手を叩いて喜ぶのは目に見えている。そのために朝晩のチェックは欠かせないし、月に一度は精密チェックも怠ることはできないもの。
尤も、兄サマの開発したシステムに、不具合など起こるはずもないってモンだぜぃ!
「ならば問題はない。遊戯の相手は…凡骨か?」
車から降りると、兄サマはまっすぐに管理施設へと向かって歩く。並んで歩くオレにあわせてくれているのか、何も言わなくてもいつもよりやや歩調を落としてくれるのが、オレには嬉しい。
ここのところちょっと仕事が忙しくて、兄サマとは顔を合わせる暇もなかったんだけど…今日はメンテの後はゆっくり食事もできるはずだし。
ただし…ココに遊戯が来ているとなれば ―― それもちょっと不安になるから。
「ううん。城之内も来てたけど…違うぜぃ。アメリカから来た女の子って言ってたぜぃ」
「…何だと?」
その瞬間、兄サマの蒼い瞳が一層の濃さを増していた。



「ボクは…サレンダーする」
そう言ってデッキに手を乗せると、相棒はもの悲しげに目を伏せた。
『相棒…』
(ごめんね、もう一人のボク。でも…)
『判っている。これで…間違ってはいないと思うぜ』
シャドウグールの攻撃力を上げるためだけにモンスターを墓地へと送るレベッカの戦術。ゲームとはそんな打算だけではいけないということを教えたかった相棒の強い優しさに、俺もあえて否は言わなかった。
だから勝ったことで大はしゃぎしているレベッカに苦笑を浮かべていると、
「レベッカ。あのままゲームを続けていれば、負けていたのはお前のほうだよ」
そういって現れたホプキンス教授に手の内を明かされて、相棒はちょっと照れたようだった。
相棒が最後に引いたカードは、「魂の解放」。これを発動させていれば、勝利は相棒のほうだったことは間違いない。
それを知ったレベッカも、どうやら相棒の真意をわかってくれたらしい。つい先ほどまで「ブルーアイズを返しなさいっ!」と言っていた剣幕とは打って変わって、女の子らしいちょっとはにかんだ表情で相棒を見上げた。
「ユーギ、私…」
「いいんだ、レベッカ。またいつかデュエルをしようね。今度はボクもサレンダーはしないよ」
「ありがとう。ええ、いつか必ず」
そうして手を差し伸べるレベッカに、相棒が応えると ――
「ま、仕方がないわね」
なんとなく釈然としないと言いたげな杏子の視線に気がついた。
『相棒、杏子がヤキモチやいてるぜ♪』
(もう、何言ってんの? 杏子が好きなのはキミの方だよ?)
『悪いな。オレには3000年連れ添ってる海馬がいるからなv』
(…その割には信用されてないみたいだね)
何を言ってと思いきや、まるで射殺されるような視線を感じて ―― 振り向けば、
「そっか。その子、全米チャンプのレベッカ・ホプキンスか。どーりで見た事があると思ったぜぃ」
いつの間に来ていたのか ―― というか、いつから見ていたのか。一段上の特等席から俺たちを見下ろしていたのは、
「あ、海馬くーん! お久しぶりv」
ニッコリと満面の笑みで相棒が見上げたそこには、モクバと白いスーツ姿の海馬が立っていた。



「ね、兄サマ言ったでしょう? 遊戯とレベッカってお似合いだぜぃ」
なにせキングダムの優勝者と全米チャンプ。お互いの肩書きも問題ないし、何と言っても、
「あーやって二人並んでると、身長も釣り合いが取れていい感じだぜぃ!」
トドメの一発!とばかりに言い放つと、流石に遊戯も黙ってはいないようだった。
尤も、
「酷いな、モクバ君。ボクだって一応、高校生なんだよ?」
「あら、ダーリン♪ 愛があれば年の差は関係ないわv」
「え? ちょ、ちょっと、レベッカ?」
突然「ダーリン」呼ばわりした挙句、腕に抱きついてきたレベッカに、流石の遊戯も慌てふためく。
「一応、勝ちは勝ちよね? ブルーアイズは諦めるから、これから私とデートしましょ、ダーリン♪」
一方、思い切り冷ややかな視線で見下ろしていた海馬だが ―― その瞬間、ブチッと何かが切れたような気がしたのは気のせいではないはずだ。
『相棒! やばいぜ、海馬が睨んでるっ! アレは絶対誤解をしてるぜ。早く腕を振りほどけっ!』
(えーっ、だって、そんな…じゃ、任せたねっ!)
「え? お、おいっ、相棒 ―― っ!?」
いきなり表の遊戯が引っ込んで、入れ替えさせられた闇遊戯のほうは突然の展開に慌てるなというほうが無理というものだ。
そしてこの時点で遊戯が闇遊戯に変わったとなれば ―― 海馬の怒りが心頭に達するなというほうが無理というものだ。
「フン、そんな小娘に負けるとは…見損なったわ、遊戯!」
その上デートだとぉ! ―― とは流石に言わないが。
「ま、待て、海馬! これには訳が…」
「言い訳など見苦しい! 俺も敗者などに用はない。せいぜい国際交流と楽しんでくることだな!」
そう言い放つと、レベッカの拘束を免れた左手を縋るように伸ばす遊戯を尻目に、海馬はさっさと立ち去ってしまった。



「…こういうのって、やっぱり浮気現場に居合わせたって言うのかな?」
そんな城之内の呟きに、
「心配するなって。兄サマの傷心はオレが癒しておくぜぃ♪」
妙にご機嫌なモクバだった。





Fin.

最初に「浮気現場」というタイトルで思いついたのは、
バトルシティ開催宣言のときの、両手に花(杏子と舞)な遊戯だったんですが…
再放送で、やっと社長に逢えるっ!と思ったのに、2週間も据え置きされたので、こちらを採用しました。

しかし最近、再放送で闇様を見てないと思ったら、GXに出張中(笑)というのが…なんともv


2005.01.29.

Atelier Black-White