24.体育 (闇遊戯×海馬)


憂鬱な3時間目の英語の授業が終わると、一気に元気になった城之内君がボクの席にやってきた。
「遊戯! 着替えに行こうぜ」
「うん、ちょっと待って。今教科書を片付けるから」
見れば他の皆も大急ぎで机の上の教科書を片付けていて、次の4時間目は体育の授業。しかも休み時間は10分しかないから。急いで体操服に着替えなきゃいけないのは確かだね。
「城之内君は片付けるの早いね」
「おうよ! だって、最初っから出してなかったからな。昼メシ前の体育だぜ? 体力を温存しておかないとな」
「…それ、自慢にならないよ」
っていうか、英語の授業は体力を使わないと思うんだけど?
まぁ城之内君らしいといえばらしいんだけどね。
だから大急ぎで支度をしようとして ―― ふと教室のとある一角に目を留めた。
そこは、いつもなら空席のままになっていることの方が遥かに多い席で。
でも今日は、丁度10分前からその席の主が存在していた ―― 貴重な空間。
そしてその机の上には、さも当然というようにノートパソコンが開かれていて、勿論次の体育の授業のために支度をするという気配は ―― 微塵もないね。
だから、ちょっとだけお節介かなとも思ったけど、ボクはゆっくり近づいて声をかけてみた。
「海馬君…やっぱり次の授業は見学なの?」
「…貴様には関係あるまい?」
「うん、そうだけど…折角学校に来てるんだもん、たまには身体を動かすのもいいと思うよ」
そんな風にボクが誘ってみるけど、やっぱり海馬君だもん。
「筋トレならば専用のジムでやっている。余計な世話だ」
…そういうと思ったよ。
そもそも滅多に学校になんか来ないし、来ても1日いることなんて99%ないと言っても過言じゃない。その上、来ても授業中でも仕事用のパソコンに向っている方が遥かに多いし…となれば、体育の授業なんて厄介なことこの上ないんだろうね。
でも、やっぱりボクは一緒に体育の授業とかしてみたいじゃない? 特に体育はペアを組んで準備体操とかもするんだよね。まぁボクと海馬君とじゃあ、ちょっと身長的に釣り合いが危ういけど、たまにはいいと思うんだけどな。
なんて思っていたら ――
『相棒、俺に任せろよ』
学校では心の部屋で大人しくしていることが多いもう一人のボクが、そう声をかけてきた。



「海馬、学校に来ているときくらい、授業に専念しろよ」
そうオレが声をかけると、海馬の表情に僅かながらの変化が現れた。
勿論、それに気が付いたのはオレくらいなものだろう。
「…貴様にどうこう言われる筋合いはない」
相棒にも似たような台詞を言っていたが、ここまで好戦的ではなったと思うぜ。
まぁ、戦女神にも匹敵する蒼穹がオレに向けられるのは ―― はっきり言って好きだけどな。
「そうか? まぁ体力に自信のないお前なら仕方がないな」
「何?」
一瞬にして海馬の視線をパソコンのモニターから奪い取る。それどころか、パタンと閉じてしまえば、落ちたも同然だぜ?
「お、おい。遊戯。やめとけよ」
オレと海馬の間の険悪なムードに驚いたのか、珍しく城之内君が止めに入る。
だが、それさえも海馬には気に入らないだろうな。
勿論オレだって引き下がる気はないぜ?
「他の授業みたいに、プリントの提出で単位を取るってわけにも行かないんじゃないのか? まさか天下の海馬コーポレーションの社長が、体育の単位が取れなくて留年なんて…笑えないぜ?」
とここまで言えば ―― 海馬のことだ。
「いいだろう。体育の授業を受けてやる」
そう言って席を立つと ―― 一瞬にして教室に動揺が伝わった。
「そうか、じゃあオレとペアを組もうなv」
フフン、折角の機会だ。こんな美味しいシチュエーションは譲れないぜ。



「ところで、今日の体育は剣道だって、遊戯、知ってるよな?」
「え?」
「そうか、剣道か。この海馬瀬人に竹刀など持てるか。今回は特別に真剣を用意してやろう」
「…」
『がんばってね、もうひとりのボク。ボクも心の部屋で応援してるから』
(お、おい、相棒っ !?)
『あ、くれぐれも殺されないようにね。ボクの身体なんだから、大事にしてよ?』





Fin.

体育の授業なんて、もうすっかり忘れましたよ。なにやってたかなぁ〜。
ただ、浅葱の行っていた高校には道場館というのがあって、1階は柔道用の畳、2階は剣道用の床の道場になってました。
確か男子は週1回の体育が、どちらかの武道だったと思ったけど?

寝技だと社長に勝ち目はないけど、剣道なら…?

2005.04.17.

Atelier Black-White