25.ラブ・レター (闇遊戯×海馬)


「もう一度、いらっしゃると思っておりましたわ」
既に閉館の時間はとうに過ぎていたはずなのに、そう言ってドアを開けたのは ―― イシズ・イシュタール。
「…それも千年タウクのお告げか?」
「いえ、単なる私の感ですわ、名も無きファラオ。さぁご案内いたします、こちらへ」
そう言ってオレが目的を言う前に案内をする先は ―― 例の石版のある部屋だった。



既に日付も変わろうかという深夜の博物館。しかもここに収められておるのは、古代エジプトの叡智を誇る数々の葬祭具だ。耳を澄ませば、葬られた死者たちの囁きさえ聞こえてきそうな静けさに包まれている。
しかし、
「どうぞ、ごゆっくりご覧ください」
そう言って唯一の照明が向けられたのは、昼間、杏子と見せられた石版。
名を削られたファラオと美貌の神官が対峙している ―― どう見ても、デュエルの様子を刻んだ石版で。
そう、この神官はどう見たって ――
「この石版は、王と対峙しているこちらの神官が残したものといわれております。そして、ここに刻まれているヒエログリフもその神官自らが記した ―― ペレト・ケルトゥ」
「ペレト・ケルトゥ?」
「はい、死者への祈り ―― 鎮魂の詞です」
そういわれてその部分を指でなぞれば、まるでそのときの光景がソリッドビジョンのようにオレの脳裏に飛び込んできた。
崩れかかった王宮の一画で、オレに立ちふさがる蒼い服を纏った神官。
あの研ぎ澄まされた蒼穹を、見間違えることなんてできはしない。
「いかがされました? 名も無きファラオ」
「いや、なんでもない」
「よろしかったら、お読みしましょうか?」
それが、そこに刻まれているヒエログリフのことだとはすぐにわかった。
だが、
「その必要はない。アイツの刻んだものだ。オレに読めないはずが無い」
そう、3000年のときを隔てても、アイツの残したものをオレが判らないはずが無い。



屍は横たわる 器は砂となり塵となり ――
黄金さえも剣さえも 時に鞘に身を包む ――
骸に王の名は無し 時は魂の戦場 ――
我は叫ぶ戦いの詩を 友の詩を
遥か魂の交差する場所に 我を導け



「遥か魂の交差する場所に 我を導け ―― か。アイツらしいぜ」
勝ち逃げは許さないと、常に向かってくる蒼穹を思い出す。
しかし ――
「友じゃないだろ? ちゃんと恋人って書けよな。全く…アイツは3000年前から恥ずかしがりやだったってことかよ?」
ついでに「戦いの詩」じゃなくて「愛の言葉」のほうがあってると思うぜ☆とか呟けば、
「ラブレターというよりは、決闘の呼び出し状だと思うのですけど?」
呆れ顔のイシズに、オレはチッチッチッと指を立てた。
「ああ、あいつは結構誤解されやすいことばっかりしてるからな。他人から見ればそう思われるかもしれないけど…」
これはラブレター以外の何ものでもないぜ!と断言すれば、流石にそれ以上は言う気がなくなったようだ。



(…やっぱり、このまま封印しておいたほうがよいのではないかしら?)
そんな風にイシズが不安に思ったのも無理ではなかったりして…?





Fin.

以前、20のお題でもちょっと使ったネタです。
あっちは海馬バージョンでシリアス(?)だったんですが、やっぱり闇様ならこうだろうかと。(笑)

浅葱の闇様感って、こんなものです。(←ヲイヲイ)

2005.05.07.

Atelier Black-White